現在、新規ブログへの移転を計画しています。準備が整い次第、近日に新サイトを告知します。最新情報はTwitterをご覧ください。なお、今後はポッドキャストを含めて発信を行う予定です。
追記(2020.08.26):ブログを移転しました。新しいブログは「Ideas for change by 小林弘人」は次のURLとなります。https://www.kobahen.com 改めてご愛読いただければ幸いです。なお、イベント登壇や緊急性の高い情報についてはソーシャルメディア上で従来通り告知していきます。
数年ぶりの自著『AFTER GAFA 分散化する世界の未来地図』(KADOKAWA)より出版しました。本書では、シリコンバレーを発祥とする中央集権型イノベーションの隆盛と同時代で起こった「サイファーパンク」の二大潮流を解説。そしてそこから誕生した暗号技術が民主化され、ブロックチェーンを準備しWeb3.0への流れを解説。さらに、dAppsほか分散化テクノロジーが実現する社会像を事例を含めて紹介しつつ、これからのイノベーションと日本が向かう方向性について書きました。
本書の導入部は『ビジネス+IT』に抜粋・転載されたので、ご興味がある方はお読みいただければと思います。
今年で3回目を数えるTOAワールドツアー東京。もともとベルリンのTOAが世界各都市でスタートしたのが、このワールドツアーシリーズです。東京以外はNY、メキシコシティ、オースティン、LAで開催されています。東京は最も規模が大きく、私が代表を務めるインフォバーン社が共催しています。
さて、今年のテーマは「LifeTech(ライフテック)」
ライフテックとは私の造語ですが、これからの衣食住など、ライフスタイル全般に関わるテクノロジーを指します。今回、すでに登壇が決定したinfarmはベルリン初の垂直農業のベンチャー。今回、共同創業者でCEOのErez Golanska氏は初来日の登壇となります。アジアでの展開を考えていると言われる同社ですが、当日何か聞けるかもしれません。
そして、Cabin Spaceyは2人が居住するミニマルハウスを製造するベンチャー企業です。可動産として新たなライフスタイルを提唱。欧州のクラウドファンディングで誕生し、注目を集めています。こちらも初来日となる共同創業者でCEOのSimon Becker氏。さらに、まだ公開準備中ですが、大きな潮流となるファッション・テック企業も登場します。
国内からのスピーカーも高評価されているTOAワールドツアーですので、こちらもご期待ください。
当日は、ピッチやセッション中でも飲食を提供し、美味しく日独の料理と飲み物を楽しんでいただけます。TOAワールドツアーは、基本的に招待制ですが、今年は一般販売も行います。枠に限りがあるので、ぜひお早めにチケットをお求めくださいませ。ネットワーキングでは国内外の参加イノベーターたちと知り合い、ディスカッションが弾むでしょう。常に高い満足度を誇るTOAは、ベルリンから来た新しいイノベーション・カンファレンスです。
昨今、デジタル・トランスフォーメーション(DX)が企業や自治体で大流行です。一方でその本質について吟味しないまま進めると、Web1.0時代の焼き直し的なものになり、誰のためにもならないデジタル化に終始するかもしれません。
本質的にはトランスフォーメーションです。デジタライゼーション(デジタル化)ではありません。組織も事業も含めたフレームワークから構築する必要があります。
今回、三菱ケミカルホールディングスのCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)を務められる岩野和生氏にお話をお伺いしました。CDOならずとも、新規事業担当者並びに経営者はぜひお読みください。
Think Business 「2025年の崖」を飛び越える、“真のデジタル変革”に必要な技術と思想の融合(2020.1月掲載)
なかなか更新がままならず、バタバタしております。近況やイベント報告はFacebookかTwitterで告知しております。本ブログについては、近日リニューアルを計画中です。さて、以下、2019年度に受けたブロックチェーンに関連する対談やインタビュー記事をまとまめます。
わたしがブロックチェーンに興味をもったのは、実はイーサリアムからで、Henning Diedrich氏の書籍『Etherum』に偶然出くわして、関連本を読み漁りました。その前にはビットコインにおけるビザンチン将軍問題や未解決問題だけを扱った書籍等には目を通す程度で、どっぷりとコミットしていた訳ではありません。
その後、再びビットコインへと遡り、そこで使われているアイデアや思想の多くが昔WIREDの頃に取り上げた多くの事柄から構成されていることに気づきました。ですので、自分はネットやパソコンにまで遡る理念(分散化)がブロックチェーンに回収されていくことを評して、「これでインターネットは完成する」というコピーをブロックチェーンに関する本に推薦文として寄せました(そのコピーは却下されましたが、いまも気に入っています)。
その本は、2016年に刊行されたウィリアム・ムーゲイヤーの書籍『ビジネスブロックチェーン』です。本書の序文はヴィタリックが寄稿していました。その後に、知人の紹介でドイツ鉄道などにブロックチェーンの実装コンサルを行うUntitleの創業者らと交流をもちました。仮想通貨について自分の考え方が変わったのは、イスラエルのBancore ProtocolのCEOを務めるGalia Benartzi氏の講演をTOAで見てからです。このインパクトは大きく、他にも、エストニアのFunderbeam創設者 Kaidi Ruusalepp氏の講演にも興奮を覚えました。
チューリッヒ、ツーク、香港、シンガポールにも飛び、頻繁に現地の起業家たちと情報交換を行いました。Hedera hashgraphのインキュベーションだけを行うHelix Acceleratorや現地ブロックチェーン系のハブとなって企業をつなぐコワーキングスペースのBit Worksには大いに触発されました。また、ローンチ前のベルリンのNeuFundと情報交換し、セキュリティトークン(彼らはエクイティトークンと呼称)の可能性を感じたのもこの頃です。実際にチューリッヒのクリプト系スタートアップの日本ローンチを支援しようと、元クレディスイスの銀行家だったCEOと討議を続けていました。残念ながらその企業自体が清算してしまい、プロジェクトは凍結。しかし、いろいろ法律面の違いや、どのように投資家を集めるかなど、そのサービスの裏側を知ることができ勉強になりました。
2017年、知人を介してイスラエル ブロックチェーン協会のアドバイザリーボードのオファーをもらいました。また、2018年4月、TezosのCo-FounderであるArther Breitman氏とPolkadotのFouder Peter Czaban氏を日本に招きました。そして彼らや国内の先駆者たちに日本企業を加えて、ビジネス・ブロックチェーンに関するイベントをTOA Word Tour : TOKYO 2018のプログラムとして開催しました。同年にはベルリンのFull Nodeにも視察で訪問し、分散型予測市場を展開するGnosisからレクチャーを受けました。
ずっと考えていたのは、ベルリンとロンドンにはビジネスパーソンとブロックチェーン業界をつなぐハブが存在していますが、日本にはないということです。そこでそのような啓蒙活動及び実際のプロジェクトをインキュベートする活動の必要性を痛感。2018年にインフォバーンにUnchainedt という社内組織を立ち上げました。Unchainedでは CollaboGate、「あたらしい経済」編集部と一緒にブロックチェーンの社会実装プログラムを行うなど、これまでに55社以上のインキュベーションを実施してきました。
わたしたちのメソッドは、ベルリンで開催されたWeb3 Summit2018でわたしがレクチャーを受けたブルックリンのPatara labによるデザイン思考のテンプレートをベースにしています。考案者のEngine氏から許諾をいただき、独自のメソッドとして下敷きにしながら何度もトライアルして、新規事業創出に適合できるように改良しました。
2018年、パナソニック・アプライアンス社のブロックチェーン家電のコンセプト立案を支援、SXSW2018で発表。2019年に広島県のクロステック・チャレンジで県下の企業に対するインキュベーションを実施。UnchaindeではCTOの松田幸一が中心となって、エンジニア向けの勉強会をほぼ毎月開催、Substrateなどのフレームワークを用いたメインチェーンの開発と研究を行っています。
以下は、わたしが受けた取材と識者との対談記事への紹介リンクです。
FINDERS編集部からの質問を受けて、ブロックチェーンの概観とそれがもつ可能性などについて話が始まります。「ブロックチェーン=仮想通貨」というイメージを抱いている方が多いからでしょうか。そして、その後、地方創生やトークンエコノミーの話題、最後は日本のイノベーションの問題点や分散化について話をしました。
→ FINDERS インタビュー(2019.07.19-07.19 公開)
日本IBM ブロックチェーン・ソリューションズ 事業部長の高田充康氏との対談記事。国際貿易のサプライチェーン「TradeLens」について、またHyperledger Fabricのパフォーマンスほか、話を聞いています。
→ IBM Think Business(2019.06 公開)
https://www.ibm.com/think/jp-ja/business/blockchain-dialogue
ベルリンでオンライン・プライバシーについてのTOAサテライト・イベントに行きました。ホストはJOLOCOM。分散型ID(DIDs)〜自己主権型IDとも呼ぶ〜のサービス開発するブロックチェーン企業です。
分散型IDとは、従来のようにユーザーのID管理を中央集権的に行うものではなく、DIF(Decentralized Identity Foundation)が推進する分散型IDの記述フォーマットや専用サーバを用いて、IDに関する情報を暗号化し、窃視されたり第三者に委ねたりせずにユーザー自身が管理するIDを指します。JOLOCOMは、そんなDIDsをユーザー自身がスマホで管理できるためのアプリを開発しています。
セッションには、モジラ、Tactical Techほかが講師として登壇。
Tactical Techは市民のためのテクノロジーを調査するNGO(ドイツ拠点)で、テクノロジーが健全な市民社会に与える影響を軽減させることを目標にしています。たとえば、フェイクニュースやAIを使ったディープ・フェイク問題、ダークパターン問題などが挙げられます。ダークパターンとは、ユーザーの情報を抜くために作られたオンライン上のUIを指します。ダークパターンの事例は以下のまとめが詳しいです。
なかにはオプトアウト(ユーザーにSPAMなどを送りつける企業は得てしてその許諾を解除する場所がわかりづらい)したくてもできないとき、あるいはどんな個人情報を集めているのか知りたいとき、米国では以下のようなサイトでリソースを共有できます。
セッションのなかで、The Glass Roomの話が出てきました。The Glass Roomはいかにわたしたちがデジタル上では裸に近い姿で行動しているかを可視化します。そして、その事実を啓蒙し、注意喚起する活動で、期間限定展示を世界の各都市で行っています。The Glass Roomが実際に行っている展示についての記事はFUZEの記事「私たちは皆、ガラスの部屋で生きている」に詳しいのでご参照ください。
Tactical Techが作成するWebサイト内に「Data and Activism」というページがありますが、こちらにソーシャルメディアの注意点のほか、飛行機の予約などで用いられるPNRというデータの構造とPNRが政府機関に報告されていることが記載されいています。ほかにも、イベント・アプリやVISA申請におけるリスクやそれらが集めたデータがどのように統合されて、本人の政治的傾向や個人データが分析されるかなどを指摘。だんだん気分が滅入ってきます(苦笑)。
ほかにもExposingtheinvisibleというサイトが紹介されました。こちらには、個人情報がどのようにハックされ晒されているかという事例が多く載っています。
続くセッションでは、2018年に施行されたGDPR(EU一般データ保護)についての解説が中心でした。GDPRはご存知のように個人情報における主権を個人に取り戻すことを目的した保護規制であり、EU内での規制を統合しています。本セッションはいわば「GDPR早わかり」ですが、企業等による個人情報管理の濫用を防ぐ努力がなされているかを問う内容でした。
そこでは、GDPRを4項目にわけて説明が行われました。「役割(Roles)」「原則(Principles)」「権利(Rights)」「コンピテンシー(Conpetencies)」です。
「役割」は、ユーザー(データサブジェクト)、企業などのデータ収集者(データ・コントローラー)、処理者(データ・プロセッサー)、受取人(データ・レシピエント)、移転(データ・トランスファー)となります。
「原則」には、合法であること、目的の限定、データの最小化、データの正確さ、保存期限、完全性と秘匿(セキュリティ)、説明責任が含まれます。
「権利」は、アクセスする権利、訂正する権利、忘れる権利(削除の権利)、制限する権利、移転する権利、異議を申し立てる権利が含まれます。
「コンピテンシー」について、監督を行う組織として、欧州保護データ会議(EDPB)、欧州各国のデータ保護機関(DPA)の名前が挙げられました。そのうえで、当局は「役割」に登場する各組織への教育、調整、査察、計測の要求、罰金を科すことができます。
その後、企業側がどのような対策をなすべきかといった説明が行われ、セッションは終了します。
聴講した感想としては、ますます自己主権的なデータ管理が求められるという一方、一般ユーザーがその管理を行うにはソリューションが少なすぎるということです。おそらく、Web3.0のような分散型ウェブの本領はオンラインプライバシーで発揮されるだろうという予感がありますが、本格的に稼働するにはまだ時間がかかりそうな気がします。
加えて言えば、日本ではユーザーの権利やプライバシーについての意識が低いため、啓蒙活動がまだまだ必要だと思います。事実、以前に朝日新聞にGAFAについてのコメントを寄せ、プライバシーについても語りましたが、他の「IT評論家」を名乗る識者は「気にしなくていい」と語っていました。専門家にしてこの程度の感覚ですので、驚きを禁じえません。
GDPRについて以下にすぐ読める概要がまとまっているので、参考までにリンクを貼っておきます。
GDPRの概要(前編)・GDPRの概要(後編) by NTTデータ先端技術株式会社
*本記事内の訳語は法律用語と相違する可能性があります。間違い等があればご指摘ください。また、筆者はあくまで聴講した内容を伝える目的で訳しているので、正確を期するには直接原文の資料(EU deta Protection Rules by European Commission)にあたっていただき、専門家の指示を仰いでください。
TOA19の2日めに参加したピッチのレポートです。
価値ある都市開発を行うべくソーシャルインパクト専用ファンドを組成するMetro1の同社創業者Tony Cho氏は、マイアミのイノベーション・ディストリクトMagic Cityなどを手掛け一躍有名に。
また、都市圏のマイクロ・コミュータとして脚光をあびるe-Scooter Circ創業者のCEO Lukasz Gadowski氏など、近年注目される起業家たちが登壇しました。大手企業からもダイムラーグループとBMWが手を取り合った ReachNowのグローバルCEO Daniela Gerd tom Markotten 氏ほか、豪華なスピカー陣が勢揃い。
以下はDay2について、わたしが聴講できたものについてのレポートです。
・Ethics in Entrepreneurship(起業家における倫理):セラノス告発者へのインタビュー
まずはErika Cheung氏へのインタビューセッション。Cheung氏はバイオテック業界の女性版スティーブ・ジョブズと騒がれたエリザベス・ホームズが創業したセラノスの社員でした。
周知のようにセラノスは静脈注射ではなく、一滴の血液からあらゆる疾患がわかるという機材を発明したと謳ったスタートアップです。将来はその機材を家庭向けに提供するとも。しかし、実際にそのような機器は存在しなかったことをメディアにすっぱ抜かれ、SEC(証券取引委員会)より詐欺として連邦地裁に告発され、世界中に衝撃が走りました。
Cheung氏によれば、彼女がセラノスに入社したのは2013年のこと。カリフォルニア大学バークレー校を卒業した22歳の彼女は、その就職を喜んでいたそうです。当時の従業員数は100名在籍していたようですが、彼女自身がセラノス社内でなにをすべきかはわからなかったそうです。
Ethics in Entrepreneurship 立ち上げまで
セラノス社内は極度に秘密主義で、各部署が孤立していて、横の連携もなく社員には情報が与えられていなかったとのこと。そして、社員はNDA(秘密保持契約)によって束縛され、企業名を語ることも禁じられていたとか。やがて血液検査の実験を繰り返しても結果はいつも失敗し、疑念を感じたCheung氏はラボのほかの仲間たちと情報交換をするようになったようです。Cheung氏のなかに科学者として、また初めての組織における振る舞い方について葛藤があったことも吐露しています。
セラノス社内は、彼女いわく「完全なサイロ」だったとのこと。彼女は7ヶ月で同社を辞め、香港に移住します。告発者の何人かに彼女の名前が出て、セラノス側は彼女を告訴すると脅したようですが、弁護士に相談し覚悟を決めたようです。彼女は監督庁となる「Centers for Medicare and Medicade Services」に同社を告発する手紙を書き送達したと語りました。
元社員の自殺者まで出たセラノスのスキャンダルですが、日本で起きたSTAP細胞問題を彷彿させます。また、科学(テック)と倫理、投資家のデューデリジェンスの甘さと、ホームズ氏をヒロインとして祭り上げてしまったメディアが持つ構造的な歪み、強欲な資本主義とテクノロジーの関係性について考えさせられる内容でした。
Cheung氏は、現在「Ethics in Entrepreneurship(起業家における倫理)」という非営利のアドバイザリー活動を行っています。そんな彼女が語った「Technology has a patient(テクノロジーには患者がいる)」という言葉が心に刺さりました。その企業の時価総額、あるいは株主や創業者のためではなく、真に対峙すべきはそれを待っている患者だということです。
起業家は時に「できない」を「できる」と主張したり、それを信じることで生まれるものも多いことは否めません。しかし、これが行き過ぎると頭の中では、どこまでが理想で、どこからが現実なのか線引きが曖昧となりがちかもしれません。こと医療に関してはソフトウェア企業のような流儀は通用しない(やってはいけない)ということを示唆する内容でした。そして、「(従業員が)情報や資源に接触できること」「核となるテクノロジー(を隠すべからず)」ともCheung氏は述べました。
後に調べてみたら、HBOが制作して話題となったセラノスの内部を描くドキュメンタリー「The Inventor」に、Erika Cheung氏は出演しているようです。
・Quantum Computing -- Disruption or Revolution ?(量子コンピューティング:破壊か進化か?)
本セッションは、英国のケンブリッジ量子コンピューティング社の共同創業者兼CEOを務めるIlyas Kahn氏によるものです。
筆者は20年近く前にWIRED JAPANで量子コンピュータの記事を掲載したことがあって、そのとき「トンデモ科学」という人までいた量子コンピュータの現状に興味がありました。とは言え、本ピッチは「専門用語を使わずにわかりやすく説明するぞ」という冒頭のKahn氏の言葉とは裏腹に、知識が追いつかずにわかりませんでした(涙)。
Kahn氏によれば、なぜ量子コンピューティングに移行しなくてはならないのか、という理由は次の通りです。
1)ムーアの法則の終焉(ポスト・シリコン時代)
2)旧式のコンピューティングによるシミュレーションの限界〜創薬、新素材の設計〜
3)計算すべきデータが計算資源を超えるほど膨大に増加
2についてはWikipediaを参照すると、組合せ爆発(Combinatorial Explosion)の問題が指摘されているため、旧来のコンピューティングではもはや限界に達しているようですね。
量子コンピューティングについて、Kahn氏は次第に判明してきた次の3つの量子の特徴を使っていると説明しました。A)重ね合わせ B)量子もつれ C)量子干渉
これだけでは何のことか全くわからないため、筆者は虎の巻として、「最先端の量子コンピュータ IBM Q」を参照してみます。それによれば、量子重ね合わせによって計算を行い、量子干渉を用いて確率を増大、1の計算結果から、今度は量子もつれを利用して欲しい解を取り出す、というステップのようです。(申し訳ありませんが、解説できる方はよろしくお願いいたします)
Kahn氏のピッチでわかりやすかったのは、会場から寄せられた質問への回答でした。量子コンピューティングの実現について問われたとき、数年後にはRSA256暗号の複合化が数分で行われるだろうということ。また、プログラミングは自然言語で可能になるという話など。最後に量子もつれ光子を用いて、次の通信技術が開発されるということ。こちらは断言していました。
すでにプレイヤーとして名を連ねているのが、次の通り。製造業ではBMWやフォルクスワーゲン、ダイムラーグループほか、製薬ではBASF、金融はJ.P.モルガン、エネルギーではエクソンモービル、通信においてはドイツテレコムなど各領域数社が量子コンピューティングを行なっているようです。
それにしても、実現してしまえばブロックチェーンやあらゆる暗号が簡単に複合されたり、予測市場などは無意味になってしまいそうですね。
稼働しているものとして、限定的でありますがIBM Qを挙げていました。また、講演後にKahn氏を見つけて話しかけたら、古典的コンピュータによる量子アニーリングについても話をしてくださいました。そちらには、筆者が以前「富士通フォーラム」内の放送で解説したことがありますが、デジタルアニーラが存在します。
【追記 : 2019.8月16日】量子コンピュータについて理解するうえで、以下の記事が面白かったのでリンクを貼っておきます。ご参考まで。
Qmedia : 量子コンピュータの現在とこれから / カスペルスキー:量子超越性への不確かな道のり
・Come Fly with Me -- a Look at the Future of Air Travel(来て、一緒に飛ぼう --空の旅の未来を見る)
TOAではすでに常連となりつつあるドイツのフライングカー Volocopterのほかに、もう1社ドイツのフライングカー・メーカーで巨額の資金調達を行ったスタートアップがいます。それがLiliumです。Volocopterの航続可能時間30分未満に対して(筆者が以前に来日した同社CEOから聞き取った話より)、Liliumは航続可能な距離を300kmを謳っています。Volocopterとの決定的な差はジェットを推進力にしているところです。両者とも垂直離発着が可能なため、VTOL(Vertical Take Off and Landing Aircraft)とも呼称されています。電力で動くためeVTOLとも言われます。
本ピッチはマーケティング担当ヴァイス・プレジデントのArnd Müller氏が行いました。2015年にミュンヘンで創業したLiliumには、現在300名の社員が在籍しているそうです。Müller氏によれば、最高時速300kmで飛ぶ同社製品は最大5人乗車が可能。そして、JFK空港からマンハッタンまでタクシーでおよそ45分かかるところを、彼らの製品は6分で到達するそうです。将来的に料金もタクシーと競合するのだとか。
L.A.からサンタバーバラまでを30分でも行けるので、これまでの交通網では適わなかったルーティングが可能となり、それを「点から点(Point to Point)ソリューション」と呼んでいました。通勤圏内や日帰り旅行が難しかった場所もLiliumで近場になってしまうということですね。キャッチコピーとして、「繋がっていない場所を繋ぐ(Connected Unconnected)」を標榜しています。
Volocopterは都市圏での展開を視野に入れていますが、Liliumの場合は都市と都市、あるいは都市と郊外というように、その棲み分けも明快です。今後は「モバイルアプリ」「機体開発」「離発着場」の同時開発に注力するとのこと。とにかく、スタイルがSFチックで格好いいですね。垂直で上方移動後は尾翼が回転してジェットの力で水平移動します。
#ちなみに、筆者が主宰するUnchainedでは、9月にフライングカーを開発する日本企業やその誘致を狙う自治体を集めて、「フライングカーとそのビジネスモデルを考える」というイベントを東京都内で行う予定です。今年6月にワシントンDCで開催されたUber Elevate Summitの報告も兼ねます。仔細はソーシャルメディア等でいち早く告知したいと思います。
・Revolutionary Branding for Startups (Powered by ZeBrand) スタートアップに向けた革命的なブランディング by ZeBrand
日本企業からは、前日のパナソニックに続き、モリサワからグローバル向け新規事業であるZeBrandの発表が行われました。同社の菊池 諒氏と赤生悠馬氏がイノベーション・ステージに登壇し、サービスの中身をプレゼンしました。
ZeBrandは起業したばかりのスタートアップ向けサービスです。デザイナーを雇わずとも簡単な質問に答えていくだけで、自社ブランドを視覚化したWebページを構築できます。いろいろと資源が限られるスタートアップ向けのターンキー・サービスとして、魅力的なものに映りました。
(撮影はすべて筆者)
7月3日から4日まで、ベルリンのFunkhausで開催されたTOA19の3日の模様です(わたしたちが企画する視察ツアーとしてはDay2に相当)。
昨年はブロックチェーンとモビリティがメインの様相でしたが、今年からはソーシャル・インパクトからフードテック、そしてダイバーシティ、ヘルスケア、マインドフルネスが目立ったという印象があります。
おなじみのゲートをくぐってからのレイアウトも変更。いきなり屋内会場のHaus of Techに誘導され、導線がスムーズになりました。
・Taking Home Entertainment Out of the Home (ホームエンターテインメントを家の外へ連れ出す)
今年はエントリーしてすぐに目についたのは、パナソニック社のブースです。同社の若手デザイナーたちによる気鋭のプロジェクト「Future Life Factory」によるTOA初出展です。
ブースでは、同社とグーグルがタッグを組んだ知育玩具「pa ! go」がお披露目されました。Innovation Stageでも同社の今枝 侑哉さんとグーグルの担当者が登壇し、同製品のコンセプトをピッチ。
pa ! goは、筒状になっていてカメラを内蔵。グーグルが開発した機械学習ライブラリを用いて画像認識を行い、カメラが捉えた対象物の情報をその場で音声にて知らせます。例えば花の名前や動物の名前など。なおかつそれを記録することで、後で家族とテレビなどを介して共有できます。スマホに夢中になる子どもたちの興味を、Pa ! goを利用することで広い世界に向けさせ、さらにそれがまた家族のコミュニケーションを促進させるという体験がデザインされていました。
以下は、TOA初日にわたしが聴講したそのほかのセッションの一部となります。
・AI & Street Level Imagery :Maps Reimagined(AIとストリートレベルの画像 : 地図を再描写する)
残念なことに、こちらのピッチは最後の数分しか聴講できませんでした。ただし、この企業はとてもユニークなので記述しておきます。Mapillaryはユーザーによって撮影されたストリートの画像を使って3Dモデリングを行い、街の新しい地図を作成するスゥエーデンのベンチャー企業です。
いわばグーグル・ストリートビューのCGM版。将来的に自動運転車による活用も見越し、自動運転車が利用するのは座標のみではなく、どこに停まるのかといった視覚情報を含めた新しい地図だということです。それを提供すべく、MapillaryではAIによって画像を3D化。また、「ここの地域の画像が欲しい」というニーズに対して、ユーザーが直接提供し対価を得られるようなマーケットプレースを実装している点がユニークでした。登壇したのは同社共同創業者でCEOのJan Erik Solem氏。
・Energy to the People via Blockchain(ブロックチェーンによって、エネルギーを人々に)
Glid Singularity というブロックチェーン企業は、「エネルギーを人々に」というテーマでセッションを展開。同社共同創業者兼COOのAna Torbovich氏は、洗濯機やオーブンといった家電同士が余剰電力を互いに供給しあう未来のイメージが語りました。そこでは、電力供給会社を選べて、いつでも電力網にアクセス可能、誰もがプロシューマ(消費者でありながら供給者)にもなれる世界観を述べました。
すでに電力のP2Pトランザクションでブロックチェーンが活用されている事例として、バングラデッシュのSOL Shareを挙げ、ほかにシンガポールのSP Groupが再生可能エネルギーのマーケットをすでに展開しているとも。英国のElektronやドイツのOcean Protocolの名前も出ていました。(Ocean Protocolには去年ベルリンで表敬訪問していますが、業界で有名なBigchainDBの別プロジェクトですね)
Grid SinguralityではWeb Energy Foundationが後押しするD3Aというコンセプトのマーケットプレースを促進するかたちでブロックチェーンを利用し、再生可能なエネルギーの分散化、民主化を目的にしています。
・The Rise of Avator(アバターの隆盛)
本鼎談は非常に触発される内容のもので、個人的にはこの日のベストでした。
登壇したのは3名。実在の人間を高精細に3Dスキャンし、骨格(ボーン)を仕込んでモーションをつけ、それをライブ活動やコーマシャルなどにレンタルするデジタル・タレント・エージェンシーとも呼べるMimic ProductionsのHermione Flynn氏。そして、3Dや拡張現実をモチーフにアート活動を行うJohanna Jaskowska氏、最後に人間の動きをキャプチャーしてアバターがリアルタイムで呼応する仕組みを開発するtwentyBNのMoritz Mueller-Freitag氏の3名が鼎談しました。
余談ですが、Mimic Productionsにはわたしのドイツ人の友人が経営する企業がつくる3Dボディ・スキャナーも使われています。わたし自身も3Dボディスキャン事業を展開していたので、本セッションはとても分かり易かったです。
アバターとひとくちに言っても、そのレンジは広く、超高精細で限りなくリアルなものから、ポケモンのキャラクターのようなものまで、定義は困難を極めます。Jaskowska氏によれば、人類は物語を再生産するため、人格も同様に再生産されるとも。次のリアリティショーはデジタル・アバターによるものになるだろうと予見。
twentyBNのFreitag氏は、今後、AIがキャラクターを演じることになる可能性について言及。すでに開発は進んでいて、もしかしたら、窓口業務などは人間の仕事を奪う可能性もあると示唆しました。
議論はディープフェイク(AIなどの技術を用いてつくられた、本人のなりすまし画像や動画)問題などに及び、アバターの倫理的側面について及びました。
ちなみに、Jaskowska氏は世界ではじめて100万円で落札されたデジタル・クチュール(デジタルのオートクチュール)ブランドThe Fabricantのドレスを、彼女自身が拡張現実を用いて着用。ドレスを着た可視化写真がバズり、話題となりました。
・The End of Human Driving(人間による運転の終焉)
グーグルの自動運転プロジェクトWaymoの 元プロダクト・マネージャーであるLaurens Feenstra 氏によるピッチでは、人類が車を運転する行為そのものがなくなるだろうという刺激的なものでした。
Feenstra 氏は自動運転の段階をStage1から3まで区切り、それぞれを説明していましたが、以下の通りです。
Stage 1 : 最初の自動運転車があなたの街にやってくる
Stage 2 : いたるところに自動運転車がある
Stage 3 : 人間による運転の終焉
Stage2については、現在の自動運転レベル5に相応しているようですが、一度、自動運転車の一台が自動運転をマスターしてしまえば、残りの自動運転車すべてが同様に進化するという観点が面白かったです。つまり、車と車、あるいは車に接続されるモノ同士の結合が増えれば増えるほど、相互に学習したアルゴリズムを共有しあい、そこからは線形に波及するのではなく、指数関数的に飛躍するのでしょうか。
人間による運転は楽しみでもあり、それはどうなるのか?という質問には、それはラストワンマイルになるだろうとのこと。どこかに自動運転に出かけ、ある区間だけドライバーが運転するということでした。
・Canabis :Beyond the horizon of Cheech & Chong(大麻:チーチ&チョンの水平を超えて)
タイトルにある「Chechen & Chong」とは70年代に席巻した二人組が出演するコメディ映画シリーズで、いわばマリワナとヒッピーのバディ・ムービーでした。このインパクトが大きかったのか、いまだマリワナ吸引者を描く映画などでは、このChechen & Chongのステレオタイプから逃れられません。
同じように大麻をめぐる話も、この域を出ないと思われます。しかし、大麻医療系のプロダクトを手掛けるTreesの創業者であるNikolas Simon氏は、登壇してすぐに「このピッチのあと、あなたたちの大麻に関する見方はがらりと変わるだろう」と予告しました。
本セッションの内容はわたしのような素人にはすごく難しく、大麻が医療に果たす役割を医学用語を使って説明する内容でした。
Simon氏は最初に数千年前の古代から大麻について言及された歴史をひもとき、常に文明の発展とともに大麻が果たした役割を述べました。しかし、飛躍的に大麻に関する知識が発展したのは、20世紀に入ってからのことのようです。
1964年に「大麻研究の父」と呼ばれるイスラエルの科学者ラファエル・メコーラム氏が、いわゆる「ハイになる」成分(THC)とは切り離したかたちで、大麻に含有される化学物質(カンナビノイド)の化学式を固定化したことで、エンドカンナビノイドシステムの研究が始まったとのこと。
エンドカンナビノイドシステムは、われわれ人間にとって、重要な身体調整システムであり、ウィキペディアを調べると、内因性のカンナビノイドということで、一言でいえば脳内麻薬物質でしょうか。どうやら、このエンドカナビノイドはすべての臓器と連携していて、加齢や疾患などとも関係しているようです。
Simonさんの話では、われわれのエンドカンナビノイドには、ふたつの受容体があり、そこで栄養素を受け取ることができるらしいのですが、昨今、大麻ビジネスとして隆盛を誇るCBD(カンナビジオール)は、エンドカナビノイドを活性化する大麻由来の化学物質ということですね。
なるほど、ピッチ終了後には大麻に関する見方がガラリと変わったように思えます。
このセッションのおかげで、なぜ最近になって大麻医療が盛んになってきたのか背景が少しだけ見えた気がします。それにしても、古代から人類の身近に存在しながら、その正体が謎だった大麻について科学的に解明され始めたのが90年代後半とは驚きです。いかにわれわれが無知で、さまざまなレッテルを貼って物事をみてしまうかということを改めて認識しました。
*以上、各ピッチのサマリーは理解が完全ではないと思うので、間違いが含まれているかもしれませんので、ご指摘いただけましたら幸いです。撮影はわたし自身によるものです。