その女の子の名前はトゥーリ(Tuuri)。フィンランド語で「運命の神」とか「収穫」「成功」を意味する言葉だ。トゥーリは、耳のカールが特徴的なアメリカンカールという猫種である。
彼女は、生まれてから一度も小さなケージの外に出たことがなかった。彼女の育った場所を後にして、キャリーのなかの彼女を車に乗せると、ぼくの車の後部座席にシートベルトで固定した。車が走り出すと、やがてキャリーのなかからとても不安げな鳴き声が聞こえてきた。
それまでトゥーリとは二度ほど会っていたけれど、とても大人しくしていた。だっこしても嫌がらずにじっとしていた。だから、ぼくが彼女の声を聞いたのはそれが初めてだった。
高速道路に乗ると彼女の不安は増大し、鳴き声はとても切なげなか細い悲鳴のようになり、誰かに助けを求めているみたいになった。渋滞につかまって一般道をノロノロ進むと、それはおさまった。信号で停まる都度、ぼくが後部座席を振り返ると、キャリーの覗き窓から、彼女の大きな緑色の目がこちらをじっと見ていた。
部屋まで運ぶ途中、キャリーの隙間から、彼女はバイクの爆音に怯えながら、道行く車や人々をまん丸目で凝視していた。そして、とても怖かったようで玄関先でブルブルと全身を震わせていた。かわいそうに。
初日に便通がなかったので心配だった。だから、トイレの砂のなかでウンチを発見したとき、とても嬉しかった。完食快便、よかった、よかった。動物のウンチを見て、あんなに嬉しかったのは後にも先にもこれが初めてだ。
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