本稿は毎月連載しているコラム『本の街角』において、12月の初旬に配信された記事を再録したものです。ご笑覧ください。
今回はデジタル・コンテンツの話ではなく、その逆だ。コンテンツを読むための道具がデジタル化しているという話をしてみたい。
本コラムをお読みの皆さんが目にしている記事も、紙に印刷されるまでは、デジタルデータとしてやり取りされている。最終的な出力が紙になるのか、液晶画面になるのか、その差次第で見せ方や呼ばれ方も違うが、どうせデジタルでできているコンテンツなのだから、新聞や雑誌という紙の器がデジタル信号を処理できれば、もっと合理的ではないか、ということだ。
まずは、先月に発売開始されたインターネット書店最大手の米アマゾンが開発した電子ブックリーダー「キンドル」。これは、日本のソニーがすでにeブック・リーダーの呼称で「リブリエ」という液晶画面付きの専用端末を販売していた実績をもつが、それを少し発展させたもの。
なにが違うのかというと、キンドルはそれ単体でインターネットに接続することが可能で、読者は、米アマゾンのサイトからキンドルで読むことが可能な電子書籍を購入し、ダウンロードできる。
それにより、新聞・雑誌の記事や人気ブログなどが同端末で閲覧可能となる。世界的に電子ブックリーダー向けの出版が普及しないなか、すでに膨大な数の顧客とコンテンツを抱えるアマゾンが電子ブックリーダーと、そのコンテンツを発売したことは注目に値する。
そして、この「キンドル」登場を可能にした技術は十年以上前に発案された。先のリブリエもそうだが、多くの汎用型電子ブックリーダーが採用している液晶は、もともとマサチューセッツ工科大学の研究から誕生したE−INKという会社が開発した技術を用いている。消費電力が少なく、紙に印刷された文字のような質感で、薄く軽量な素材にも印刷可能であることから、世界的な標準でもある。すでに、紙のように薄い液晶パネルも発表されているので、本紙記事を液晶越しに読む日も、そんなに遠い未来のことではないかもしれない。
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