米アマゾンの電子ブックリーダー「キンドル2」が評判ですが、ついに今夏にはさらに大きな画面を備えた「キンドルDX」の発売を発表。これにより、電子ペーパーとまではいかないけれども、最初の不格好なものよりイイ線に近づいてきたかもしれません。
ニューヨークタイムズ等、苦境にあえぐ大手新聞社はこの「キンドルDX」を大歓迎のようですが、キンドル・シリーズでの電子新聞購入が普及したところで、はたして現在規模を維持できるほどの収益が新聞社にもたらされるかは怪しい気がします。
電子ブックリーダーでは先行していますが、あまり成功しているとは言いがたいソニーでは規格をオープンにすることでキンドル迎撃を行うようです。その一方、iPhone向けの電子ブック閲覧ソフト「Stanza」を開発する会社をアマゾンは買収するなど、アマゾンのジェフ・ペゾスCEOは「本気で」電子ブック市場の寡占を狙っているのではないでしょうか。
そして、アマゾンにとってのロールモデルは、実はアップルのiTMSとiPodではないかと筆者は予測します。つまり、膨大な数の顧客を抱え込んだその「市場力」を背景に、強気のマージン設定で多くの出版社・新聞社を一介のコンテンツ・プロバイダーとして自らのビジネスの薪にする可能性です。
これまで物理的な販売網を統制し、ビジネスの胴元となっていた多くのマスメディアは、今後、新しい市場占有者であるアマゾンなどに薄い利幅でのコンテンツ供給を余儀なくされるでしょう。つまり、胴元から一介のプレイヤーにならざるをえない……。
電子ブックの販売金額ですが、米ニューヨークタイムズによれば、ウォールストリートジャーナルが9.99ドル、雑誌のThe Timesは13.99ドル、ニューヨーカーが 2.99ドル(いずれも月額の定期購読費)とのこと。
日本の新聞が朝夕刊あわせて数千円することを鑑みると、物理的にのしかかる印刷やロジスティクス、中間業者へのマージン費用が軽減される反面、低収益化が懸念されます。
電子ブックリーダーとしては、Web系ではおなじみのニュースブログ TechCrunchがCrunchPadというタブレット型デバイスを発表していますが(米国のみ)、安価なネットコンピュータ(NC)が普及すれば、NC陣営が電子ブックリーダー市場に乗り出して来る可能性もCrunchPadは示唆しているのではないでしょうか。
そんな電子ブックリーダーの普及台数は米国でも100万台以下と言われていますが、米書籍出版協会(AAP)によれば、2008年は2007年と比較し、電子ブックの売上は前年同期比で51%増とのこと。
それにより、米国では紙の書籍を電子ブック化するサービスも台頭しつつあり、すでにInnodata Isoge社は10万点以上の書籍を電子ブック化しているそうです。デバイスはクロス・プラットフォームを想定しiXMLを使用しているとのこと。
今後はブラックベリー、iPhoneなどのスマートフォン向けの電子ブックも増えていくことでしょう。
これら電子ブック市場の加速にともない、伸長しそうなベンチャー・ビジネスとして、Innodata Isoge社のような電子ブック化を取り巻くアウトソーシングにチャンスがあると言えます。ほかにも、著作権の管理や法務、エージェント業務など、このあたりは今後旧来出版社とつきあいのない新進の作家(携帯小説を想起してください)を中心にニーズがあるでしょう。
ということで、電子ブックの未来はニッチ・メディア側に商機あり、とみているのですが、いかがでしょうか。
参考:NewYorkTimes.com / アメリカ出版研究会9年4月号(紙媒体)
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