昨年に発刊された書籍『FREE(フリー) <無料>からお金を生みだす新戦略』(著者 クリス・アンダーソン)に引き続き、この度、新たに『SHARE(シェア) <共有>からビジネスを生みだす新戦略 』(著者 レイチェル・ボッツマン、ルー・ロジャース)という書籍の監修・解説を務めさせていただきました。『フリー』は電子版がもうじき発売予定です。『シェア』は電子版に先駆け紙の書籍が12月18日に刊行されます(いずれも発行元はNHK出版)。
『SHARE(シェア)』はネットの潮流に留まらず、社会全体に対してインターネットを介してなにができるのかといった方向性を指し示す重要な一冊だと個人的に考えています。もし、これから起業を目指す人が本書を手にとったら、その後の人生を大きく変えるかもしれないインパクトをもっているのではないでしょうか。
詳しくは、『SHARE(シェア)』の巻末に1万字近い解説を寄せていますので、そちらをご参照いただくとして、ここではかいつまんで同書を紹介しておきます……
新しいコミュニティとシェアビジネス
『SHARE(シェア)』では「コラボ消費」という言葉が謳われています。P2Pによる商取引、バーター、レンタル等を指す著者たちの造語ですが、近年、このコラボ消費は大きな広がりを見せつつあります。著者たちが指すコラボ消費のウェブサービスは、必ずしも非営利的なものばかりではなく、それと商業主義とのハイブリッド型ないし、中間に位置するような多様なサービスが多く含まれます。このコラボ消費は、いずれも信頼を基軸にしたコミュニティ型のウェブサービスから生まれつつあります。
バーチャル・コミュニティでの信頼はeBay、ヤフオクなどの出品者評価のように可視化されています。そして、その信頼が次回の取引を生むための原資となります。「尊敬資本」「評判資本」とも呼ばれるそれは、コミュニティへの貢献度をも指示し、多くのコラボ消費型ウェブサービスにとって、信頼度の高いユーザーこそが重要なサービスの要となります。
商業的な文化に慣れ親しんだわたしたちは「テイク」ばかり望んでしまいがちですが、インターネットでは、「ギブ&テイク」の贈与経済的な文化がいまも根づいています。多くの掲示板やQ&A専門サイトで交わされる情報は、提供者の貢献なしでは存立が困難です。ウィキペディアやソーシャル・レンディング(個人間融資)、あるいはクラウドファンディング(グループ投資)などのサービスが実績を上げつつある背景にはなにがあるのでしょうか。
これまでリアルで顔をあわせたことのない人たちがテクノロジーによって再接続され、新しいコミュニティを築き、そこに帰属する喜びや恩恵を感じられることがコラボ消費のひとつの特徴であり、本書は多くのサービス事例とその利用者たちの声を伝えています。
上記写真は原著「What's Mine is Yours」ハードカバー
ハイパー消費社会を超えて
また、コラボ消費に数えられるサービスの多くには「非所有」という考え方が含まれています。
これまでの大量消費文化は大量生産という技術革新により発展してきましたが、モノが行き渡り、過剰な浪費やそれによって生じる環境への負荷が問題視されています。本書ではそれらをコラボ消費の対極にある「ハイパー消費」として位置づけています。
そんなハイパー消費社会の習慣として、「所有する・次々と買い替え、捨てる(捨てない場合は、倉庫を借りて一生に数回すら使わないものを蓄える)・仲介人に任せる」ということが挙げられると思います。それらに対して、コラボ消費では「所有しない・捨てない・共有する・直接対話する」といった方向への転換が見られます。
アーティストやエンターテイナー、テクノロジー系の起業家たちが環境ついて語り、デザイナーたちがリユース可能な素材を検討するように、いま多くの人の間に「このままではマズい」といった気運が満ちているのではないでしょうか。同書は各分野で起きつつある流れを、シェアリング・エコノミー(共有型経済)という一本の太い芯に紡いでいきます(解説でも述べますが、その背景にはサービサイズやプロダクト・サービス・システムという考え方が存在しています)。
「非所有」のサービスとして、カー・シェアリングの例がもっともわかりやすいでしょう。モノをもつのではなく、ネットを介在させてモノの価値にアクセスするという事例が本書ではふんだんに紹介されています。
たとえば、ガーデンシェアリング(庭や菜園のシェア)、自分の車や駐車場を他人に貸すピア・シェアリング、働く場所を共有するコ・ワーキング(オフィス・シェアリング)など。
さらに人生の一時期にしか必要のないモノ〜幼児用玩具、子ども服、特殊工具等々〜や、堪能し尽くしてしまったDVD、本、CDなどは、そのままゴミ捨て場に直行するのではなく、それを必要としている人たちのニーズにマッチングさえすれば、形がある限りその価値を何度も受容することが可能となります。
地域別に物々交換の情報が載るフリーサイクル、同等の価値をもつモノと交換可能なスワップコムなど、eBayとは違うコラボ消費の進化を遂げるサービス以外に、ブランド品や玩具のレンタルなど必要なモノを必要な時だけ届けるサービスもコラボ消費に数えられています。
これらはニーズの時差を利用したリユースとして、今後の大きなビジネスチャンスかもしれません。時差だけではなく、地域や通貨の差を利用したサービスも多く見受けられます。
個人的に気に入ったのは、互いの時間やホスピタリティをシェアするビジネスです。また、物々交換ではなく、才物交換(才能とモノを交換〜わたしの造語)もなかにはあります。そして、個人間だけではなく、企業間のB2Bシェアリングについても触れています。
本書の語り口調はあくまで穏やかです。「これを使わない奴はダメ」というのではなく、技術によって「欠損を埋め、修繕する」といった印象です。それは、これまでの社会の綻びを皆でデバッグしようという試みにも思えます。そこにあるのはデザインへの意思です。
ここで言うデザインとは意匠のみを指すわけではありません。設計思想や社会のあり方そのものも織り込んだ、もっと大きなデザインです。そして、いま多くの業態の混乱を見るにつけ、決定的に欠けているのが、内向きの発想ではない業界を越えたデザイン力ではないかと思いました。
最後になりますが、この『SHARE(シェア)』は初版本のみ、1冊ごとに個別ID番号が振られています。同書を読んで誰かに手渡す都度、新たな読者が自分の手にした本のIDを公式サイトで入力することにより、その本がどう旅してきたのかの履歴がわかるようになっています。ぜひ、初版本を入手された方は、本書を誰かとシェアしてみてください。また、感動したセンテンスなどもシェアできるような仕組みも用意されています。
→ 『SHARE(シェア)』の公式サイト : Share-biz.jp (こちら読後の本書を共有し、地図上で確認することが可能です)
→『FREE(フリー)』と『SHARE(シェア)』の文書を共有できるサイト(電子書籍から任意の箇所を自動引用。紙の本からは手動での文章入力が必要です):ShareReader
→ 原書『What's Mine is Yours』のサイト(英語):What's mIne is Yours
→ 共有型経済についての情報サイト(英語):Shareable
→『シェア』発刊記念パーティーのお知らせ(ライフハッカー・ジャパン): lifehacker Japan
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