マスコミ界の専門紙である文化通信の紙面に折り込まれるシステムとマーケティング情報に特化した冊子「文化通信bBB」に、私のインタビューが掲載されました。
内容はメディア企業のデジタル対応についてです。
日頃から私が主張していることがまとめてられていますが、改めて「デジタル化は流通チャンネルがまたひとつ増えた、という認識では失敗する」という話をしています。つまり、デジタル化とは、新たなビジネスモデルとバリューチェーンの構築であり、「組織のコアバリューを問う根本問題」なのです。
それは、「おまえはなにを売り物として、商売をしているのか?」を問うてくる経営課題です。
売り物は紙だ!と言いきるならば、紙メディアの売行き減とともに滅びるだけでしょう。
ゆえに、経営者に対し、デジタル化とは、紙以外の売り物を問うのです。そして、経営者が真剣にそれに解を見つけようとしない出版社(特に雑誌社・新聞社)に未来はないという主張をしています。
ほかにも、現行の出版社の取組みは間違いだらけ、という話をしていますが、それについては紙幅もないため、具体的には割愛しつつも、「雑誌のコアコンピタンスはその形状にあらず」という私の持論を展開しつつ、安易なデジタル化やユーザーを見てもいない「古いコンテンツをウェブにコピーしただけ」の方法論に疑義を呈しています。
『イノベーションへの解』の著者でもあるクレイトン・クリステンセン氏は、雑誌社のウェブへの取組み方について、具体的に4つの法則を挙げています。
1 ハイブリッド(混合)であれ
2 新しいオーディエンスに的を絞れ
3 新しいビジネスモデルに突入せよ
4 正しい「外部」の声を招きいれよ
上記は私が主張するまでもなく、非常に簡潔に核心を突いていると思います。
日本の出版社の取り組みが遅々として進まないのは、環境の変化に対する脅威や危機意識が欠乏しているというだけではなく、同族起業が多いため、トップダウン型に慣れ親しみ、さらにはビジ ネス・スタイルそのものが「内側」向きの「調整」主体だからだと思います。ゆえに取次、書店、版元の三位一体型のビジネス構造も「調整」ありきで、調和を崩す者は招かざる者なのです。
しかし、本来、商売とは「外側」にいる消費者があって成り立つものであり、あるときには消費者を含むステークホルダーとの拮抗から生まれる緊張状態が、「進化」を促す場合があります。
また、コンテンツを組成するという行為は、「調整」のみではなく、時に「攻撃」や「破壊」すら含むクリエーティブなものです。しかし、「調整」しかしていないのに、文化に対しクリエイティビティを発揮しているという錯覚があるのではないでしょうか。この錯覚が、「こちらは昔からクリエイティブなのに、時代がダメになっている」という時代錯誤に転じなければいいのですが。
真に問うべきは、存在そのものがイノベーティブであるかどうかでしょう。
その意味でも、版元の進化に必要なことは、小手先のSEOやDTPに連動した統合ソフトを導入する云々など以前に、経営層が「舵取り」の目標を定めることだと、私は信じています。航路や航海の技術は、まず旅の目標がなければ意味がありません。後者だけが先走りした場合、船頭多くして船は進みません。
私のところにも、既存の版元から相談が持ち込まれることが時折ありますが、はっきり言って、小手先の技術やスタイルだけを教えても意味がないのです。ビジネスにしたいのなら、ゴールを明快にし、そこまでたどり着く強固な意思をもってこそ、それに応える気持ちも生まれてくるものだと考えます。
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