江ノ島では、五つの頭をもつ龍がいて、村人を悩ましていたのだとか。
そして、その龍は突如として空に現れた美しい天女に恋をし、その天女に結婚を申し込んだらしい。天女はもう暴れないことを龍に誓わせ、龍との結婚を承諾したのだという。
江ノ島には天女と龍のカップルが棲んでいた。
意外なことだ。
そして、その顛末は……
龍は江ノ島のために働き、最後は力つきて山になる。
その後、天女はどうしたのだろう? 天女の話は民間伝承では語られていない(と思う)。そこで、ぼくが話の継ぎ足しをする。
勝手に想像するに、天女はきっとその山に小屋を建て、そこで暮らしたに違いない。龍の気配を全身に感じながら、日々を過ごしたことだろう。水を汲みに行くとき、龍の吐息を肌に感じ、宵に登った星々に龍の視線を感じながら。
しかし、天女は山全体が龍だったとしても、やはり寂しさを感じずにはいられなかったはずだ。何度も袖を涙で濡らしたことだろう。
やがて、天女もまた、いつか息を引き取り、龍の山に没したに違いない。かつての龍の背で眠る幸せな午睡のように、ようやく訪れた安堵を噛み締めながら……。
そのとき、山全体を風が揺るがし、まるで龍の咆哮のような雄叫びをすべての生き物は耳にする。悲しいような、嬉しいような、永遠のような、刹那なような、その音を聞いたときの感情が、21世紀のいまも私たちのなかを通り抜けていく。
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