夜に起きて 吐く
便器の前 体を折り曲げ
全裸 で
吐く
穴という穴
から
吐く
朝から
見たもの
聞いたもの
考えたたもの
すべてを
吐く
便器に 吐瀉物
の山
おえ
目からも 吐く
耳や
毛穴からも
吐く
精嚢からも
吐く
吐きながら
病院を 想う
内科を 想う
泌尿器科を 想う
精神科を 想う
脳外科を 想う
病院とは
人間 という象徴の
分解
である。
高く 上げた 尻
看護婦が やってきて
肛門に シリンジ浣腸器を
ぶすっ
縮んだ
陰茎に
カテーテルを
ぐさっ、
病院とは
感情という労働者の
離席
である
また 吐く
吐く
吐く
吐くものが
なくなると
粘膜が削げ
優しい 皮膜
までも
血を流し
卵を 産むのか
痛くて
大きな
まるい ものが
喉元を
せりあがる
力めば
力むほど
それは
出ては こない
しかし、
医者なら
小骨を 取り除くように
口腔に 薄いゴム手袋をした 指を入れて
手品みたいに
ほれっ、
銃口から
次々と 現れる
洗濯ひもに連なる国旗
の赤白黄色や
他言語で
書かれた
魂の
ようなものを
引っぱり出すだろう
それは、
絡まりながら
腸より
姿を 見せるが
それでも
この先、
まだ
吐かねば
なるまい
泣きながら
神を
吐く
悶絶しつつ
すがる
記憶の膨らみを
その卵形を
流線形を
吐く
携帯も
メールも
届かない
彼岸で
ただ ただ
吐くのだ
体が 内側より 裏返り
便器の前
脱ぎ捨てた コートのように
わたし を
覆う
皮膜
だけ
が
残った
透明である
あれから
わたしは
わたしが
見当たらない
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