TOA(Tech Open Air)18にご参加された方々、おつかれさまでした。
2018のTOAを振り返ってみます。その前に「そもそもTOAってなんだっけ?」という問いにお答えしたいと思います。TOAのアウトラインについては、こちらをお読みいただくとして、カンファレンスとしての立ち位置について説明を試みたいと思います。
全世界で勃興するTOAのようなカンファレンスを、わたしはNew Conferrenceと呼んでいます。スタートアップを中心としたテック・カンファレンスは欧州にもいろいろありますが、それらをまとめて括るのは少し乱暴かもしれません。
かくいうわたしも以前は、そのような独立系イベントのムーブメントをまとめて括って説明したことがあります。しかしながら、どうにも腑に落ちません。Web summitやヘルシンキのSlushやリンツのアルスエレクトロニカと同じグループかと言われると、ぜんぜん違うのですから。Slushについてはスタートアップが多く登壇したり、出展するという共通項はありますが、それでも全体像は異なります。むしろ、バルセロナのSonarなど、TOAに近いかもしれません。
なぜそんなことを考えたのかというと、それぞれの主催者や関係者と話をしていて気づいたからですね。いつも、話をしていてお互いがいかに違うかという話題になります。自分なりにまとめると、異分野横断型(クロスカルチャル)かどうかが大きなポイントだと思っています。
その意味で、SXSWとダイムラーがタイアップしたme conventionは、TOAと同じグループだと捉えています。もともと同コンベンションは本家SXSWのような音楽、映画、インタラクティブと広げてきたメガ・カンファレンスにその源流を見てとれます。
しかし、本家は各分野のレイヤーが重なっていますが、密接に交わっているかというと、そこはわたしの不徳と致すところゆえ、まだ実感しずらいところでもあります。ですので、(a)カンファレンス自体が分野横断しているのか(b)それが何を産み落とそうとしているのか (c)bを生み出すためのサブシステムが内包されているのか? (d)後述しますが、コトが中心なのか、投資や営業が中心か、はたまた人間が中心か否か に着目してみると、おぼろげながらNew Conferenceの輪郭が浮かんでくるのではないでしょうか。
敬愛する福島県のレジェンド起業家・山寺さんに紹介いただいたオランダのBorder Sessionなんかが、まさに自分が考えるNew Conference 像に合致していると思います(参加したことがないので、あくまで推測ですが)。
Future Proofってなに?
これまで、TOAを説明する際に「学際的(interdisciplinary)」という言葉が公式に用いられていました。今年は「Futre Proof」という言葉がポスターに踊っています。このことについて創業者のニコラス・ヴォイスニック氏(以下、ニコ)がTOAワールドツアー東京2018に来日した際、直接話を聞いてみました。
ニコは「これまで使っていた学際的というのはわかりづらかったかもしれない。訪れる人たちにとって、どのようなメリットがあるのかを示したかったので、Future Proofという言葉を使うことにしたんだ」と述べました。彼いわく、「企業人、あるいは政府の人、もしくは個人にとって、TOAで得られるのは、『未来』なんだ。皆がどのような立場にあっても、TOAに来てもらえたら、それに備えることができる」とのこと。
つまり、働き方はどう変わるのか、都市の交通はどうなるのか、ブロックチェーンはわれわれをどこに運んでいくのか...。参加者それぞれによって得られる解答はバラバラだと思います。しかし、未来への耐性をつけるため、あらゆる分野の人たちと出会い、触発される。参加体験そのものが、Future Proofingかもしれません。
ここに、先述した分野横断であるという話と組み合わせると、TOAとはテクノロジーがもたらす未来についての会議体なのだという説明がしっくりくるような気がします。
New Conferenceでは参加者自身が触媒
TOAのピッチでは「なにを見たらいいですか?」と問われることが多いのですが、投資先や協業相手探しではない人と海外カンファレンスに飽きている人向けには、次のように答えています。
「スタートアップも面白いけど、もっと変なスピーカーが紛れているので、その人たちを見るといいですよ」と。TOA18では、Smell Labのシセル・トラス氏のピッチがそれに該当します。人間の本能でもっとも記憶と結びついている「匂い」。それを使ってアラートを送り出すなど、匂いのコード化を唱える彼女の登壇は非常に面白かったと思います。
昨年だとErika Lust氏でしょうか。スゥエーデンの女性ポルノ映画監督(とその夫)によるオンライン性教育についてのアイデアです(Erika氏へのリンクは過激なのであえて張りません)。これもTOAならではのキャスティングと言えます。
また、AIやブロックチェーンのセッションだけではなく、どこにでも運搬可能なスマート小型住居Cabin Spacyなど(創業者と直接パーティー会場で話ましたが、完全にファンになってしまいました)、そうかと思えば、元CIAのエージェントでNASAの宇宙飛行士としては初のアフリカ系アメリカ人のジャネット・エップス氏、テクノ・レーベル界の大御所ダニエル・ミラー氏などが登壇しています。
まさに学際的というか、知のカオス状態と呼ぶべきか。このカオスには、新たなイノベーションの種子が包含されていますが、それを発見し、異なる土壌から土壌にその種子を蒔くことができるのか。実はNew Conferenceは参加者自身がカタリスト(触媒)なのです。
ゆえに、New Conferenceにおいて、目的なく「何を見たらいいですか?」といった問いへの解は非常に難しく、「何をやりたいのですか?」と聞き直すしかありません。残念ながら、多くの日本企業は「分野はともかく、すごくイケてるスタートアップに会いたい」と回答されることが少なくないので、推薦するのが難しいのです。ブロックチェーンだけをとっても、BancoreとGolemでは、「イケている」といった観点が異なるので。
また、TOAは決してピッチや出展ばかりが目的のイベントではないと答えています。これはニコも語っていますが、「人と人が学び合い、成長を促すプラットフォーム」なんですね。サテライトイベントやさまざまなネットワーキング、そして直接CEOたちと話ができるAMAなど、人と人をつなぐ仕掛けがあります。つまり、人間中心主義であると。これもNew Conferenceのひとつの定義に加えていいでしょう。コト(特定のテック)やマネー中心ではない、ということです。
つまり、ピッチなどのタイムテーブルに沿って参加するだけではなく、それ以外の時間をいかに能動的に動くかどうかでNew Conferenceにおいてはその印象が変化するでしょう。SXSWのようなメガ・イベントとの違いは、コミュニティとの距離の近さが挙げられます。かつてLAで開催されたTOAのスピンオフイベントで知り合ったドイツ人は、TOAの印象を「旧友たちに会いに帰ってきたような感じ」だと述べていました。そんな「つながり」を感じられる部分が、TOAにはあります。
ベルリンそのものがコ・ワーキング都市である
昨年のTOAにはフライングカーについての出展やピッチが目立っていたため、2018年のSXSWで行われたuberとBell Helicopterによるフライングタクシー発表など、わたしにとってすでに予習済みとなっていたことが嬉しかったです。ある意味、わたしのFuture Proofでした。
また、昨年に続いて印象に残ったものは、フィンテックとインシュアテック(保険)の躍進ぶりです。大人気のN26もさることながら、ottonovaなどオンラインでこれまでの旧態依然とした業界を打破すべく登場したスタートアップの勢いが止まらないという感じでしょうか。
さらにシェアリングサービスも続伸していますが、一方でEDEKAといったドイツの高級スーパーマーケット・チェーンがオンライン販売でかなりの利益を上げています。同社はフードテック・キャンパスをベルリンに開設しました。また、米のLocal MotorsもベルリンのEuref と協力して、北米に次いで完全無人走行バスOlliの実験を開始しています。ベルリンは確実にオープン・イノベーションの実験室へと変貌を遂げつつあります。
ほかに、個別に注目するスタートアップもありますが、あまりに多いので、具体的な名称やサービスについてはTOA公式報告会でお配りするレポートに掲載しました。加えて、日本企業との橋渡しを頼まれた案件もあるので(オールインワンの卓上型コーヒー焙煎機と眼底検査の遠隔診断システム〜いずれも実績あるスタートアップです)、ご興味ある企業担当者は、直接わたし宛にお声がけしていただければと思います。
*本記事内の写真はいずれも筆者撮影
以下はTOA18公式報告会のご案内です。東京と京都で開催します(一般販売:参加費 3,240円)。当日はTOAだけではなく、ベルリンの最新アクセラレーターや施設などの視察報告や参加者同士の軽い懇親会も予定しています。
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