7月3日から4日まで、ベルリンのFunkhausで開催されたTOA19の3日の模様です(わたしたちが企画する視察ツアーとしてはDay2に相当)。
昨年はブロックチェーンとモビリティがメインの様相でしたが、今年からはソーシャル・インパクトからフードテック、そしてダイバーシティ、ヘルスケア、マインドフルネスが目立ったという印象があります。
おなじみのゲートをくぐってからのレイアウトも変更。いきなり屋内会場のHaus of Techに誘導され、導線がスムーズになりました。
・Taking Home Entertainment Out of the Home (ホームエンターテインメントを家の外へ連れ出す)
今年はエントリーしてすぐに目についたのは、パナソニック社のブースです。同社の若手デザイナーたちによる気鋭のプロジェクト「Future Life Factory」によるTOA初出展です。
ブースでは、同社とグーグルがタッグを組んだ知育玩具「pa ! go」がお披露目されました。Innovation Stageでも同社の今枝 侑哉さんとグーグルの担当者が登壇し、同製品のコンセプトをピッチ。
pa ! goは、筒状になっていてカメラを内蔵。グーグルが開発した機械学習ライブラリを用いて画像認識を行い、カメラが捉えた対象物の情報をその場で音声にて知らせます。例えば花の名前や動物の名前など。なおかつそれを記録することで、後で家族とテレビなどを介して共有できます。スマホに夢中になる子どもたちの興味を、Pa ! goを利用することで広い世界に向けさせ、さらにそれがまた家族のコミュニケーションを促進させるという体験がデザインされていました。
以下は、TOA初日にわたしが聴講したそのほかのセッションの一部となります。
・AI & Street Level Imagery :Maps Reimagined(AIとストリートレベルの画像 : 地図を再描写する)
残念なことに、こちらのピッチは最後の数分しか聴講できませんでした。ただし、この企業はとてもユニークなので記述しておきます。Mapillaryはユーザーによって撮影されたストリートの画像を使って3Dモデリングを行い、街の新しい地図を作成するスゥエーデンのベンチャー企業です。
いわばグーグル・ストリートビューのCGM版。将来的に自動運転車による活用も見越し、自動運転車が利用するのは座標のみではなく、どこに停まるのかといった視覚情報を含めた新しい地図だということです。それを提供すべく、MapillaryではAIによって画像を3D化。また、「ここの地域の画像が欲しい」というニーズに対して、ユーザーが直接提供し対価を得られるようなマーケットプレースを実装している点がユニークでした。登壇したのは同社共同創業者でCEOのJan Erik Solem氏。
・Energy to the People via Blockchain(ブロックチェーンによって、エネルギーを人々に)
Glid Singularity というブロックチェーン企業は、「エネルギーを人々に」というテーマでセッションを展開。同社共同創業者兼COOのAna Torbovich氏は、洗濯機やオーブンといった家電同士が余剰電力を互いに供給しあう未来のイメージが語りました。そこでは、電力供給会社を選べて、いつでも電力網にアクセス可能、誰もがプロシューマ(消費者でありながら供給者)にもなれる世界観を述べました。
すでに電力のP2Pトランザクションでブロックチェーンが活用されている事例として、バングラデッシュのSOL Shareを挙げ、ほかにシンガポールのSP Groupが再生可能エネルギーのマーケットをすでに展開しているとも。英国のElektronやドイツのOcean Protocolの名前も出ていました。(Ocean Protocolには去年ベルリンで表敬訪問していますが、業界で有名なBigchainDBの別プロジェクトですね)
Grid SinguralityではWeb Energy Foundationが後押しするD3Aというコンセプトのマーケットプレースを促進するかたちでブロックチェーンを利用し、再生可能なエネルギーの分散化、民主化を目的にしています。
・The Rise of Avator(アバターの隆盛)
本鼎談は非常に触発される内容のもので、個人的にはこの日のベストでした。
登壇したのは3名。実在の人間を高精細に3Dスキャンし、骨格(ボーン)を仕込んでモーションをつけ、それをライブ活動やコーマシャルなどにレンタルするデジタル・タレント・エージェンシーとも呼べるMimic ProductionsのHermione Flynn氏。そして、3Dや拡張現実をモチーフにアート活動を行うJohanna Jaskowska氏、最後に人間の動きをキャプチャーしてアバターがリアルタイムで呼応する仕組みを開発するtwentyBNのMoritz Mueller-Freitag氏の3名が鼎談しました。
余談ですが、Mimic Productionsにはわたしのドイツ人の友人が経営する企業がつくる3Dボディ・スキャナーも使われています。わたし自身も3Dボディスキャン事業を展開していたので、本セッションはとても分かり易かったです。
アバターとひとくちに言っても、そのレンジは広く、超高精細で限りなくリアルなものから、ポケモンのキャラクターのようなものまで、定義は困難を極めます。Jaskowska氏によれば、人類は物語を再生産するため、人格も同様に再生産されるとも。次のリアリティショーはデジタル・アバターによるものになるだろうと予見。
twentyBNのFreitag氏は、今後、AIがキャラクターを演じることになる可能性について言及。すでに開発は進んでいて、もしかしたら、窓口業務などは人間の仕事を奪う可能性もあると示唆しました。
議論はディープフェイク(AIなどの技術を用いてつくられた、本人のなりすまし画像や動画)問題などに及び、アバターの倫理的側面について及びました。
ちなみに、Jaskowska氏は世界ではじめて100万円で落札されたデジタル・クチュール(デジタルのオートクチュール)ブランドThe Fabricantのドレスを、彼女自身が拡張現実を用いて着用。ドレスを着た可視化写真がバズり、話題となりました。
・The End of Human Driving(人間による運転の終焉)
グーグルの自動運転プロジェクトWaymoの 元プロダクト・マネージャーであるLaurens Feenstra 氏によるピッチでは、人類が車を運転する行為そのものがなくなるだろうという刺激的なものでした。
Feenstra 氏は自動運転の段階をStage1から3まで区切り、それぞれを説明していましたが、以下の通りです。
Stage 1 : 最初の自動運転車があなたの街にやってくる
Stage 2 : いたるところに自動運転車がある
Stage 3 : 人間による運転の終焉
Stage2については、現在の自動運転レベル5に相応しているようですが、一度、自動運転車の一台が自動運転をマスターしてしまえば、残りの自動運転車すべてが同様に進化するという観点が面白かったです。つまり、車と車、あるいは車に接続されるモノ同士の結合が増えれば増えるほど、相互に学習したアルゴリズムを共有しあい、そこからは線形に波及するのではなく、指数関数的に飛躍するのでしょうか。
人間による運転は楽しみでもあり、それはどうなるのか?という質問には、それはラストワンマイルになるだろうとのこと。どこかに自動運転に出かけ、ある区間だけドライバーが運転するということでした。
・Canabis :Beyond the horizon of Cheech & Chong(大麻:チーチ&チョンの水平を超えて)
タイトルにある「Chechen & Chong」とは70年代に席巻した二人組が出演するコメディ映画シリーズで、いわばマリワナとヒッピーのバディ・ムービーでした。このインパクトが大きかったのか、いまだマリワナ吸引者を描く映画などでは、このChechen & Chongのステレオタイプから逃れられません。
同じように大麻をめぐる話も、この域を出ないと思われます。しかし、大麻医療系のプロダクトを手掛けるTreesの創業者であるNikolas Simon氏は、登壇してすぐに「このピッチのあと、あなたたちの大麻に関する見方はがらりと変わるだろう」と予告しました。
本セッションの内容はわたしのような素人にはすごく難しく、大麻が医療に果たす役割を医学用語を使って説明する内容でした。
Simon氏は最初に数千年前の古代から大麻について言及された歴史をひもとき、常に文明の発展とともに大麻が果たした役割を述べました。しかし、飛躍的に大麻に関する知識が発展したのは、20世紀に入ってからのことのようです。
1964年に「大麻研究の父」と呼ばれるイスラエルの科学者ラファエル・メコーラム氏が、いわゆる「ハイになる」成分(THC)とは切り離したかたちで、大麻に含有される化学物質(カンナビノイド)の化学式を固定化したことで、エンドカンナビノイドシステムの研究が始まったとのこと。
エンドカンナビノイドシステムは、われわれ人間にとって、重要な身体調整システムであり、ウィキペディアを調べると、内因性のカンナビノイドということで、一言でいえば脳内麻薬物質でしょうか。どうやら、このエンドカナビノイドはすべての臓器と連携していて、加齢や疾患などとも関係しているようです。
Simonさんの話では、われわれのエンドカンナビノイドには、ふたつの受容体があり、そこで栄養素を受け取ることができるらしいのですが、昨今、大麻ビジネスとして隆盛を誇るCBD(カンナビジオール)は、エンドカナビノイドを活性化する大麻由来の化学物質ということですね。
なるほど、ピッチ終了後には大麻に関する見方がガラリと変わったように思えます。
このセッションのおかげで、なぜ最近になって大麻医療が盛んになってきたのか背景が少しだけ見えた気がします。それにしても、古代から人類の身近に存在しながら、その正体が謎だった大麻について科学的に解明され始めたのが90年代後半とは驚きです。いかにわれわれが無知で、さまざまなレッテルを貼って物事をみてしまうかということを改めて認識しました。
*以上、各ピッチのサマリーは理解が完全ではないと思うので、間違いが含まれているかもしれませんので、ご指摘いただけましたら幸いです。撮影はわたし自身によるものです。
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