最近、知り合いの投資家から「ウェブ3.0企業」の紹介をしてもらった。
「もう3.0かよ」と思ったが、2.0が投資的観点からほぼ壊滅的だったことに懲りず(褒め言葉です)、すでに「Next Big Thing(次のデッカイこと)」を模索しているのだ。
ウェブ3.0はどんなトレンドなのか聞いてみると、「パーソナライゼーション」と「レコメンデーション」だって。
それって、3.0未満の2.X.X的な細かい話じゃないかとツッコミを入れたくなる自分がいる。
ウェブ2.0ブームのときに、ウェブ3.0について尋ねられたけれど、私はそれを「IPv6」や「RFIDタグ」などによる、URLがないものにURLがつき、行動や会話など検索できる世界が、次の3.0のビッグピクチャーではないかと言った気がするが、まだまだ情報家電も下火だし、IPv6よりも、もうNGNとかの話になっている(でも、それすら弱火かも)。
そんなわけで、APIやCGMなど、サービスの公開と移譲がウェブ2.0のコアにあった思想性というか、初期インターネットの頃から包含されていたことだけれど、オープン化の次は、互いのプラットフォームに相互乗入れする「PaaS(プラットフォーム・アズ・サービス)」の時代だとも語られているようだ。
先日、湯川鶴章さんと話をしたとき、米国の広告やマーケティング業界では、互いのデータベースを参照し、レベニューシェアするなど、サービスのオープン化に向かっているという話をされていたが、これもひとつのPaaS的な流れなのだろうか。あとで調べてみると、このような方法はVRM(Vender Relationship Management ベンダー・リレーションシップ・マネージメント)というらしい。
そんなことをうだうだ考えていたら、Open Meshという、かなり革新的かつラディカルなアイデアがあることを知った(検索をかけると、WiFiのルーターについて書かれたサイトが見つかるが、そっちではない)。
これは、乱暴に総括すると、私たちインターネットユーザーのIDやコンテンツなど、デジタル・ライフスタイルにかかわる「属性(どこのだれよ?)」「メタデータ(何について書いてるの?)」「ステータス(いま何してる?)」などを、ユーザー自身がコントロールできるようにしようというもの。
つまり、ブログはそれがどのブログASPであろうが、RSSを吐き出しているし、トラックバックも送信できる(一部でクローズドなサービスもあるようだが)。それと同じように、どこかのサービスに属していないと、恩恵にあやかれないというサービスではなく、前述したような情報を基にサービスの乗り合いを行い、真にセマンティックにしていこうよ!というアイデアなのだ。
提案しているのは、Broadband Mechanicsの創設者であるMarc Canter氏(Canter氏のプレゼン資料はこちら)。
Marc氏によれば、Open Meshのインフラには既存の各データが用いられるようだ。たとえば、RSS、Atom、XMPP、OpneID、oAuth、OpenSocial、Portable COntacts、FOAFなど。
DNSサーバのように、我々のIDや情報を参照するようなイメージだろうか。もちろん、そのデータはどこかの企業が独占的に保有できるものではないとされるのだが。
またコンテンツなどのメタデータはウィキペディアのように、皆でデータベースをつくって、それを共有しようと呼びかけている。
これらOpen Meshのインフラは、NEAの思想で支えられる。NEAとは、Nobody owns it(だれもが占有しない)、Everybody can use it(だれもが使える)、Anyone can improve it(だれもが利用・改良できる)といったものだ。
このOpen Meshのアイデアに触れると、ひさしぶりにインターネットらしいアイデアだな、と思う。それが機能するかどうかは別として、このようなビジョンを提示する人が常に登場するところが、アメリカの懐の深さだ。
Marc氏も語っているが、これまでは先行者にばかりビジネス上のアドバンテージがあったが、このようなオープンなインフラができることで、後発のサービスにもチャンスは与えられるだろう。
つまり、先行した企業が決めたやり方に縛られるのではなく、インターネットにおける行動はユーザー自身が決めるのだ、という主張が込められている。
Open Meshが具体的にどのようなイメージとなるか、まだ頭に描けたわけじゃないけれど、ある意味、ユーザー中心主義に立つセマンティックウェブだと言えるかもしれない。
ブログやSNS、動画・写真共有など、どの企業のサービスを使っていようが、それらが相互にデータを交信し、また開示してもよい情報について、他のサービス提供者も利用できるため、SPAMの温床になるリスクもあるけれど、より各個人に適したパーソナライゼーションが可能になるのかも。
Facebookの衝撃は、それ自身がタコのように、たくさんある足がウニョウニョ動いてあらゆるサービスを絡めていくことだった。でも、それはあくまでFacebookに向けた各種サービスの規格公開化であり、これらが、Open Meshなる考えに基づき、Facebook以外に開示されていくと、インターネットはまた違う局面に突入するだろう。
もう一点思ったのは、信頼の構築について。これはあくまで匿名を排除する考えではなく、個人情報を公開したくなければ公開しないでよいのだが、統一アイデンティティがあって、それが信頼に足るならリアルワールドのようなコミュニケーションも悪くないよ、という提案でもある。
ここらへんは、ブログやポッドキャスト・ムーブメントを経たいまのほうがわかりやすいし、自分が誰なのか明白にしたうえで主張することが当然という文化的背景もあるだろうけれど、そうすれば、あなたのつくるマイクロコンテンツにもファンはつくし、お金になるはず、というブランド・マーケティングの考え方も含まれているのだ。
このOpen Meshについて、議論がどれだけ盛り上がるのか諮りかねるが、既存社会に対して、それが「クライアント・サーバ型」(つまり、サーバがあって、クライアントがそれに繋がる=マスメディアや著名サービスなどの大企業があって、ユーザーがそれに繋がる)であれば、「ピア2ピア型」(クライアント同士が直接つながる)を提案するものであり、ひいては、反マイクロソフト、反グーグルに帰納する(というか、プレゼン資料にそう書いてある)思想でもあると言えよう。
というわけで、ひさびさに面白いアイデアだったので触れているうちに、長文になってしまった。
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