立花隆氏が昭和54年に上梓した『アメリカ性革命報告 (文春文庫)』を読了。
実は、前回に書いた書籍の企画が通ったので、これから書き下ろす前に、かつてのエロスの最前線を追った同書を読んでみた。復習だ。勤勉なのでR(by 嵐山光三郎)。
さて、同書に書かれた内容に隔世の感があったかというと、割とそうでもないところがあって、なかなか面白く読みました。しかし、気になったこともいくつか。
立花さんは、同書を書くにあたって、膨大な量のエロ本を読み込んでいる。巻末に文献としても挙げられているけれど、そりゃ相当な量を隅々まで。
しかし、それでいいのかというとイチモツじゃなかった、一抹の不安がよぎるわけです。この本はある意味、画期的なんですね。実際にインタビューしていないから、対面によるソースにあたっていない。なので、頼みの綱はエロ本と学術書。それを基にああだ、こうだ、と論理を展開していく。
あ、別に論難するつもりはありません。文献サーファーとしての面目躍如というか、ここまで膨大な資料を集めて、論考を展開するということは、大学のセンセーか荒俣 宏以外なかなかできるものじゃない。
これはエロ・メディア情報によって集められたエロエロ記号がパンパンに膨れ上がった妄想世界を知性によりデコード(解読)していこうという態度が本になったんですね。だから、同書は情報の集積、あるいはそれによって形成された社会通念をハックする方法論を提示しているのだ。
60年代性革命というのは、メディアの発達とともに、エロエロ情報だけ流布し、それによって「ああ、なんとかしなきゃ!」と悶々とした人たちが、さらにエロエロな行為に駆り立てられるというスパイラルを形成していたのかもしれない。
同書が提起した事実として興味深いのは、アメリカの性に関する情報が爆発的に生産されたのは、実はまだ最近だということ(といっても半世紀くらいかな)。これはあらゆる書物も指摘するところですが。
60年代がひとつのターングポイントだが、それ以降と以前では、性に対する認識が激変してしまったというわけですね。だから「性革命」。
アメリカの場合、バイブルベルトのキリスト教原理主義者が抱いているような性に対する厳格な規範(聖書にあれやるな、これやるなと書かれているから)が、そこまで厳格じゃない人々の間にも潜在的にモラルとして敷衍していて、それにより、ががちがちに個人の性を縛っていた反動が、性革命の原動力であるらしいことが同書では示唆されている。
大別すると、同書はこんなカテゴリーを扱っている。
個人の性癖/カップルセックス/ゲイセックス/権力者のセックス/老人セックス/ウーマンリブのセックス/反ウーマンリブのセックス/こどものセックス/人類のセックス
なかなかお腹いっぱいな内容である。それにしても、エロ本の訳出の文章がうまいのだ。うまいのだが、まったくエロくないという点で、どんなに激しく下劣な内容を扱っていても、三流な俗気本に成り下がらない節度があるという特異な本でもある。
それは先に述べたように知性主義による抑制と、立花さんが個性を消して、紹介と分析に努めているメディア・ハッカーだからだ。しかし、突如、彼が前面に顕われる箇所がある。ウーマンリブに対する章である。ここはほかの章よりも気合いが入っていて、温度が違う。面白い。
20世紀の性が厳しいモラルとその反作用における相克であり、相互間に働いていた「物理法則」が崩れたいま、性はどこに向かっているのでしょうか(もともと個人的なものなので、どこに向かうもなにもないと思うが、ここでは共同幻想としての性のことね)。
エロティックなビジュアルや出会いがネット上に溢れるいま、エロスが喪失されていくのは、もしかして、抑制がないからなのかも。エロスはディシプリン(鍛錬、折檻、調教)によって育まれるのでR(by 嵐山光三郎)……なんてね。
はじめまして。
小林さんの新しい本、面白そうですね。発売されたらすぐに読ませていただきます!
最近動画サイトなどで一番気になるのは、サムネイルの女優の顔に修正(目を大きくする、肌をきれいする等)がかかっているということです。もちろんアクセス数upに貢献するのでしょうけれど、余剰やノイズをどんどん消し去っていく風潮に少し息苦しくなります。ちなみにあれは韓国・中国系の出張ホストの広告に使われ出したのが最初だったと記憶しております。
投稿情報: mos | 2008/07/07 00:36
最後の一文
>エロスはディシプリン(鍛錬、折檻、調教)によって育まれるのでR(by 嵐山光三郎
実に、キリスト教文化の下で、生まれた、S&Mを言い当ててるようですね。
個人個人の性嗜好は、その人の育ってきた環境にあって、大概が、罪悪感から生まれている気がしますね。
規範を壊したがる人間の本質を内在するから、性は、扱いが難しいのでしょう。
だから、人は、性を闇に隠しておきたいんでしょうね。
投稿情報: warasi | 2008/07/07 08:59
> mosさん
そうなんですか。サムネイル修正までしているのかぁー。
でも、動画みてがっくり!みたいなことにならないのかな。
ある意味、どんどん人工的になるほどに、リアルなものへの需要が高まるような気もしますね。(^^)
投稿情報: こばへん | 2008/07/07 10:11
> warasiさん
うーん、深いですね。
性を隠すのは、己の反社会性を隠したいということですか。
ゆえに、政治家や教育者、お医者さん、はたまた企業家のように体裁を取り繕われなければならない人々ほど、その反動でモラルなき性生活に惹かれるのかな……。
投稿情報: こばへん | 2008/07/07 10:18