文藝春秋社刊行の『日本の論点 2014』に「3Dプリンターは新産業になるのか」という問いへの原稿を寄稿しました。
そもそもB2Bビジネスにおいて3Dプリンターは製造業に深く浸透しています。ですので、今回の設問は、改めて個人向けにローエンド 3Dプリンターが普及することや、MAKERS(メ イカーズ)ムーブメントの盛上りを受けてのものと察します。3Dプリントへの過度な注目や期待に水を差す役回りを期待されたのかもしれませんが、どうなんでしょうか。
わたしの答えは大文字のYESですが、新市場を拓くのは3Dプリンターのみではないということです。「ファブリケーション(製造)」を取り巻く環境と、それを加速させるファンディングや世に出していく仕組みづくりも含めて有機的に結びつくことが不可欠ということです。たとえば、わたしが今注目しているのは、3Dプリンターで試作されるような商品をネットに繋げるための技術です。
そのひとつに、 electric Impという会社が提供する、さまざまな製品やサービスをWifiでインターネットに繋げるプラットフォームがあります。同社が提供するサービスを用いられた製品に、スマートフォンを使ってドアロックを施錠・解錠するLockitronなどがあります。
モノ作りの過程において、3Dプリンターのみならず、ArduinoやPICのような制御に必要な基盤や開発環境があるからこそ、発明や新たなマッシュアップによる再発明の可能性があるわけです。
electric Impの登場で、すべての家電をネットに繋げるのは無理でも、ひとつの機能やサービス毎なら個人や最小単位のチームで開発できるでしょう。いま、少しづつ姿を現しているのは、アイデアから製造、そして小売りまでを実現する、草の根的な超並列分散処理型バリューチェーンの一端です。
そこで必要なのは、このバリューチェーンをアイデアの段階から可視化し、ファンディングからマーケットとコマースを用意する仕組みづくりが必要でしょう。
それらを自分たちで行おうというメイカーズも存在します。自動車(競技車両)をクラウドソースで造り、販売するローカルモーターズのForgeというサービスは、アイデアの実現に関するラピッドプロトタイピングと言えるでしょう。ラピッドタイププロトタイピングとは、もともと製造業の工程を短縮し、加速させる技術のことです(3Dプリンターもその一翼を担います)。
これまでの製造、流通、小売りは大資本同士が担ってきました。しかし、今後は無数の個人が無数の小さなアイデアや製品を、旧来の製造業とは異なる速度とコストで実現できます。そういったマーケットの可能性を見せてくれたのがEtsyの成功ではないでしょうか。Etsyは名も無い個人のクリエーターたちがつくった商品を売買するアマチュア版eBayです。
3Dプリンターや3Dスキャナー、レーザーカッター等のツールが、クラウドファンディングやオープンソース、コ・クリエーションと出会ったことで、社会は突如、非自律型でジェネレーティブ(多産)な生産社会に突入しつつあると、わたしは見立てています。そんな社会にどう組織や個人が適合させていくのか、そのあたりの話は来年に刊行予定の自著でも触れたいと思います。
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