ベルリン市が毎年主催しているAsia Pacific Week (APW) Berlin 2016 というイベントからお声がけいただき、開催中のセッションにパネリストの一人として登壇するという機会をいただきました。
本ブログではAPW開催中、および昨秋にわたしが見聞してきたベルリンのスタートアップを取り巻く環境について、その一部をご紹介したいと思います。
ベルリンのコ・ワークスペース
もともとMITメディアラボの研究から派生し、いまや全世界で展開されるメーカーズの拠点としておなじみのFabLab。もちろん、ベルリンにも存在し、わたしが訪れたのは昨秋の「サイエンステック・デイ」というイベントのまっただ中。500平方メートルの面積をもつ広大な空間は、ベトツォウという第一次世界大戦前までのビール醸造所の跡地だそうです。
広大すぎる元ビール醸造所跡地。FabLabベルリンはこの左手にあります。
FabLabベルリン内にある個別プロジェクト推進ルーム。ここではウェアラブル・デバイスの開発が行われていました。
子連れで訪れる人も多く、数チームにわかれてハッカソンが行われていました。FabLab ベルリンで注目したいのは、1メートルの大きさの造形が可能な3Dプリンターがあったこと。ほかにもレーザーカッター、フライス旋盤機まで、それぞれのファブリケーション機器をスマホのアプリで予約可能で、誰が現在使用しているのかも一目瞭然。
最新機材が取り揃えられたFabLabの隣にあるのは、Open Innovation Spaceという、なにやら廃屋っぽい建物。Makeドイツ語版によれば、前記した醸造所のオーナーは、オートボックという医療機器関連企業の創業者の家族で、ベルリンの未来に備えてこの広大な空間をオープン・イノベーションの拠点として投資していくとのこと。
お化け屋敷ではありません。アイデアソンが開催されるOpen Innovation Space。とてもベルリンな感じです。
ベルリン・ベンチャーのハブ、AHOY ! ベルリン
ベルリンでコ・ワークスペースを探すなら困ることはないでしょう。betahouseなど数多くのコ・ワーク・スペースが存在し、そのなかでもAHOY ! ベルリンは、3000平方メートルを誇り、いくつかの有名なシード・スタートアップが入居しています。
EUのサウスバイサウスウェスト(SXSW)とも呼ぶべきテック・イベントの『テック・オープン・エア(TOA)』を運営する組織も、このAHOY ! のなかに入居しています(というか、TOA創設者のニコラス氏自身がAHOY !の創設者でもある)。スタートアップ企業は安価に部屋を借りることができ、カンファレンス・ルームではさまざまな企業によるイベントが連日開催されています。
AHOY ! のなかには、配送シェアリングのanyvan、ウェアラブル・ファッションのElectoroCouture、シネマフォトグラフィーのストックフォト、gallereplayなど多数のスタートアップ企業が入居中でした。
オフィスは月額300ユーロからとなり、かなり格安です。
旧東ベルリン時代の巨大工場跡地がベンチャー拠点に
ベルリン市街地からシュプレー川沿いを南東に進むと、オーバーシェーネヴァイデ地区があります。この区域は東ベルリン時代に国営の工場が集中し、東西ベルリン統一後、廃業したためかなり荒んだようです。
しかし、90年代に入ってから再開発が進み、HTW(ベルリン技術経済大学)が、かつて電線を製造していた工場をそのまま使用。以降、若者に人気の一角となったようです。周辺には1900年に自動車工場だった巨大な工場があり、東ベルリン時代の名残が多く見られます。HTWのキャンパス内には電線を切る巨大なカッターがそのまま残っているので驚きます。
HTW並びにある自動車工場跡。とにかく広大です。
大学内に残されたままの電線カッター。高さは十数メートル以上あります。
わたしが訪れたベンチャー企業もこのエリアにあり、パーティーが催されて産学交えての交流が進んでいると言っていました。近隣には代替可能なエネルギーを研究するRU研究所が入居するかと思えば、手工業のアトリエが軒を連ね、IT、グリーンテック、アートなど、ハイテクとローテクが同居しています。
TGSの建物。土日ともなると、周辺に人影はない。
かつてシリコンバレーのスタートアップ企業は、アップルのように創業者の実家のガレージで創業したため、ガレージカンパニーと呼ばれましたが、こちらはさしずめファクトリーカンパニーでしょうか。
HTWの近くには、TGS(テクノロジー・アンド・スタートアップセンター)という起業家支援キャンパスがあり、資金調達やマーケティングなどの面からもシードに対する支援を行っていて、起業エコシステムも備わっています。
巨大建造物の壁はどこまで行ってもまったく途切れない。建物の端にたどり着けるのだろうか。
わたしがランチミーティングで訪れたシュプレー川沿いにあるクレーンカフェは、字義通り屋上にクレーンが設置されていて、かつての工業施設をそのままオブジェとして借景しています。
カフェも元工場跡をリノベーション。屋上にあるクレーンが特徴的な「クレーン・カフェ」
次回は、ベルリンのベンチャー・キャピタル訪問記をお届けします。
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