4月25日に書籍『フリー』(クリス・アンダーソン著 高橋則明氏 訳)と『シェア』(レイチェル・ボッツマン、ルー・ロジャース著 関 美和氏 訳 の新装版(共にNHK出版)が刊行されます。
『フリー』は元ワイアード編集長のクリス・アンダーソン(現在、同氏は世界シェア3位のドローンメーカー3D ロボティクス社CEO)の著作で2009年に刊行され、翻訳書としては異例の19万部を超えるベストセラーとなりました。また、『シェア』は2010年に刊行され、台頭する「シェアリング・エコノミー」を伝える決定版として、多くの起業家らの教科書となっています。
その重要な二冊がこの度新装版となり、わたしも新たな解説を書き下ろしました。
通常、この業界ではすぐにトレンドやテクノロジーが陳腐化してしまうため、数年を経過した書物がこのようなかたちで再販売されるというのは、極めて珍しいことと言えるでしょう。『フリー』の初版以降も、ハードカバーと電子書籍版が売れ続けていますし、『シェア』においては、今になってシェアリング・エコノミーの特集がテレビ番組等で話題となり、一般的な認知を獲得しつつあります。その考え方をいま一度理解するには適切な時宣かもしれません。
そこで『フリー』新装版に寄せたわたしの新解説記事では、当時のフリーモデルが現在どうなっているのか、また、新たに登場しつつあるサブスクリプション(定額制)など、フリーミアム以外の最新換金化モデルなどに触れています。『シェア』の新解説時期は現在の状況を俯瞰したうえで、特に国内におけるサービスの状況、そしてシェアリング・エコノミーの思想と一般的な認知のギャップについても言及しています。
さて、ここでは『シェア』について『Think !』(東洋経済新報社)2011年春号にわたしが寄稿した記事の抜粋を掲載したいと思います。当時、まだ夢物語のように聞こえた話も、いまでは現実味を帯びています。驚くべきことに、このような古い記事を紹介すると、多くのサービスは身売りしたり、サイトを閉鎖していることがほとんどです。しかし、ここに紹介したサービスはすべて今日も継続中で、当時よりも拡大し、類似サービスも成功していることから、シェアリング・エコノミーの浸透を実感せずにはいられません。
(以下、一部抜粋)
1日をシェアサービスのみで過ごす
まだ日本ではなじみの薄いシェア型ビジネスだが、欧米ではシェアリング・エコノミー(共有型経済)、あるいはシェアリズムと呼称され浸透しつつある。そんなシェアの世界がどこまで進んでいるのか、ある人物の一日を例に紹介しよう。
米の「ファーストカンパニー」という雑誌で取り上げられたシェアリング・サービスを使いこなす架空のユーザーの一日である。ここまで極端な例はないかもしれないが、あながち完全に否定する気にもならないのは、シェアの世界はすでにわたしたちの身近にその裾野を広げ、一度それに慣れてしまうと、どんどんシェアを活用したくなるからだ。ここではわかり易くするために、仔細を省き、当該記事の骨子を紹介したい。
朝、あなたは目覚めると、「シェアード・アース・コム」で採取されたトマトを使ったオムレツをつくる。そして、「スレッドアップ」で交換したGapのカーゴ・パンツを子どもに履かせ、「ジムライド」でオフィスに通い、「フリーサイクル」で入手したラップトップで記念日用にフラットを「エアビーアンドビー」で予約する。
午後、「リキッドスペース」で予約した会議室でミーティングを行い、「ツーロ」で借りたフォルクスワーゲンのカギを解除する。そして、ナイトスタンドを買うのを忘れていることに気づき、「タスク・ラビット」で人を雇い、イケアに買いに行ってもらう。そして、購入したものを受け取ると、「ネイバーグッズ」で借りたドリルを使って組み立てる。夜、家では「ガブル・コム」で頼んだ食事と「ブッククロッシング」で借りた二冊の本を新しいナイトスタンドと共に楽しんだ。
さて、これらは呪文のように聞こえるかもしれないが、北米に現存するシェア系のサービスだ。以下に上記に登場したサービスを列記しよう。
・「シェアード・アース・コム」はガーデニングや農作物用に土地の所有者から土地を共有してもらうために両者を引き合わせる無料のサービスである。
・「スレッドアップ」は、全米最大級の中古服販売サイト。幼児服も充実。
・「ジムライド」は同僚や生徒たちが会社や学校に通勤・通学する際に一台のクルマを乗り合わせるためのライドシェアリング・サービス。同種のサービスは、昨今渋滞緩和や低公害のために、自治体が率先して導入するケースが散見される。
・「フリーサイクル」は、無料で手放したいと思う品物の新しい所有者を探すための古くからあるサービス。手数料は取られない。
・「エアビーアンドビー」は、もはや説明が不要なほどメジャーなサービスに。自分の部屋や家を貸すサービス。決済手段を提供しているため、手数料がかかる。
・「リキッドスペース」は、モバイル用のアプリで余剰の会議室を探すことができる。
・「ツーロ」は近所の人とクルマを貸し借りする、個人間をつなぐ“ピア・シェアリング”と呼ばれるサービスの一種だ。元は『リレーライド』という名前だった。
・「タスク・ラビット」はお遣いをしてくれる人を雇うサービス。ひと言でいえば個人の便利屋と頼みたい人を仲介してあげるサービス。
・「ネイバーグッズ」は近所同士でモノを貸し借りするためのサービス。
・「ガブル・コム」は近所にいる料理人に食事を調理・配達してもらう。
・「ブックシェアリング」は読み終わった本を誰かとシェアするサービス。読んだ本に同サイトが提供するラベルを貼り、ゾーンと呼ばれる場所に置いておくと、ほかの誰かがそれを手に取ることができる。そして、その本がいまどこにあるかも追跡可能。日本版も運営されている。
いかがだろうか? ここに登場しないサービスを組み合わせると、さらにシェアできるものが、こんなにも多いのかと驚くかもしれない。たとえば、ソーシャル・レンディング(個人間融資)、ベビーシッター、電子書籍、バンド仲間、ルームメイト、専門技術や知識ほか、シェアできるものはまだたくさんある。
前述のファーストカンパニー誌によると、米のガートナー・グループの研究員がソーシャル・レンディングの市場規模を試算したところ、2013年には50億ドル市場になるという。フォレスト&サリバンによるカー・シェアリング市場の見積もりは、2016年に北米だけで3・3億ドル市場に達する見込みだ。また、『シェア <共有>からビジネスを生み出す方法』(NHK出版)の著者レイチェル・ボッツマン氏は、個人間レンタル市場は260億ドルの分野であり、このような共有経済圏(シェアリング・エコノミー)の規模はおそらく1100億ドル以上の規模に達するだろうと同誌で述べている。
*本稿は2011年春に上梓したものを一部改訂している
(以上、抜粋了)
さて、当時の市場規模数値は、はたして現実を見事に予見しているでしょうか? 答えは新装版の解説にて。追記 : 新解説はhonzに掲載されました。『フリー』新解説/『シェア』新解説 をご参照ください。
コメント