ベルリンとアムステルダムにあるVRシアターにて
前回に続き、ベルリンのスタートアップ周辺の視察レポートを綴っていきます。
EUにおけるスタートアップへの投資額は、ベルリンがロンドンを抜き、現在も伸長し続けています。ガーディアンによれば、2014年に22億ドルがベルリンのスタートアップに投資され、ロンドンでは15億ドルとのこと。EU内でのスタートアップ投資ではベルリンが1位に躍進しました。
ベルリンをEUの“シリコン・アリー”(アリーはドイツ語でアベニュー)と呼ぶ向きもあります。前出のガーディアンによると、毎20分ごとに新しいスタートアップが起業されているとのこと。その最大の理由として、家賃や人件費など、あらゆるコストが安価であり、起業のためのエコシステムがすでに備わっていることが挙げられるでしょう。
ベルリンに暮らすわたしの友人らは口をそろえて、そのオープンな風土を称賛します。EUのなかでもドイツのビザは比較的容易に取得しやすいことから、世界中からアーティストたちが集まっていることでも有名です。また、EU各国からの移民も多く、難民の受け入れを含めてそのリベラルな姿勢が際立ちます。英語が問題なく通じることも魅力のひとつでしょう。
コワーク・スペースのAHOY ! でスタートアップ企業数社のピッチを聴講しましたが、創業メンバーが全員違う国の出身であるというのも珍しくありません。また、わたしがこちらで出会ったエンジニアは、シリア難民たちにプログラミングなどを教育し、スタートアップのエコシステムに組み込むといった活動を行っています。
シリコン・アリーのベンチャー・キャピタル
わたしが訪れたWesttech Venturesというベンチャーキャピタル(VC)は、主にメディアやコンテンツ企業に投資を注力しています。同社CEOのMasoud Kamali氏自身がメディア企業出身ということもあり、そのポートフォリオには、コンテンツ・コマース向けCMSを開発するStylaや、人気TV番組などの動画コンテンツを配信するアプリ開発のdailymeが並びます。
WestTech Venturesのオフィス。Unicornというコ・ワーキング・スペースを備える。
同オフィスには、コワーキング・スペースも併設され、シード未満の起業家への投資プログラム「フライング・エレファント」を準備していました。
次に訪れたのは、日本でも知名度の高い音楽共有サービスのSound Cloudに出資するAtlantic Labsです。そして、2014年に株式公開を果たしたEU内で唯一のファッションeコマースのZalandoに出資するHV Ventures の2社。彼らのオフィスには、バーベキュー・パーティーにも使える広いルーフバルコニーとバスルームが備わっていました。屋根裏部屋のようなロフトが会議室に使用され、両社ともベンチャー・キャピタルというよりは、スタートアップ企業のようです。
Atlantic Labsのエントランスはいきなりキッチン
日本のベンチャー企業にも出資するHV Ventures。プリンシパルのMaseman氏(写真中央)とパートナーのAli-Abassi氏(左)が迎えてくれた
ちなみに、わたしが地元VCの瀟洒なオフィスの印象を現地の企業コンサルタントに話すと、彼女は笑いながら説明してくれました。最近はスタートアップの売り手市場になったので、昔のようにスーツで机の上にふんぞり返っているようなVCは不人気なのだとか。どれだけハンズオンで創業者らの兄姉のように協働できるか、またこの人たちと組んでみたいと思わせるかといった好印象を与えるために、使いもしないバスルームをこれ見よがしに設置しているのよ、と(笑。
シードの先にある課題
ベルリンの中心街ミッテ地区には、2014年にグーグルが1.600平方kmの敷地にオープンしたFactoryという施設があります。同施設にはTwitter、Uber、Pinterest、SoundCrowdなど著名なベンチャー企業が入居し、新しいスタートアップと共にベンチャー・コミュニティを組成するハブとなることを謳っています。
地元ではすでに高名かつ巨大なベンチャー企業・Rocket Internetというロールモデルも存在します。同社は投資はもちろん、国外スタートアップのM&Aも手がけています。同社は先行する米国のサービスを模倣し、その欧州版をローンチすることでも名を馳せます。そのような地元の大手プレイヤーに加えて、海外の投資家もベルリンを目指します。
日本人が共同創業者を務める写真共有サービスのEyeEmの出資者には、あのピーター・シールのVCも連なっています。また、タスク管理アプリとして有名なWunderlistの開発会社6WunderKinderはマイクロソフトが買収しました。ベルリンで始まったサービスがグローバルになるにつれ、さらなる海外とのパートナーシップや巨額の資金調達という壁に突き当たるという話は、VCとの会話でも何回か耳にしました。
また、こちらのスタートアップに通底するのは、米国のようなディスラプター(破壊者)ではなく、既存のインフラやライフスタイルを拡張するタイプのサービスだということです。このあたりは、日本にも通じる傾向ではないでしょうか。
さて、今後、わたしはベルリンのみならず、欧州のスタートアップと日本企業の協働と業務提携等を促し、よりグローバルなオープン・イノベーションを支援したいと考えています。それについては、また準備が整い次第、報告したいと思います。
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