さる12月4日、東京都渋谷区のIBMイノベーションセンターにて『コンテンツ・パブリッシャーのためのIT活用入門』というセミナーで基調講演を行いました。
デジタル・マーケティングからクロスメディアによる換金化まで幅広く話をしましたが、そのなかでも本稿ではコンテンツと、その配信に対する考え方に焦点をあてたいと思います。
これまでのウェブメディアはショッピングモールのように、玄関を設け、どうお客さんを施設内回遊させるか、またそのモール内での滞在時間を延ばしたり、リピーターとして何度も訪れてもらえるよう意図して設計されてきました。
解体されるメディア
しかし、スマートフォンとソーシャルメディアの台頭により、このショッピングモール型メディアという考え方が見直されつつあります。
それは、スマートフォンの5インチ内のディスプレイで可読できる情報の限界と更新される速度(ほぼ瞬時)に端を発します。コンテンツはスマホのブラウザで閲覧するよりも、キュレーションメディアやアプリを用いたほうが便利です。そのため、同種アプリのダウンロードが拡大していることもメディア事業者に影響を及ぼしているわけです。
さらに、ソーシャルメディアでは個々のユーザーが受け取る情報の流れ(ストリーム)は各自違うものになります。それぞれのソーシャルグラフによって、受け取る情報が変化します。また、インタレストグラフのように、そのユーザーの嗜好性をプログラムが判断し、情報を選別して配信する仕組みも登場しました。
一方、それとは対極的に、先ほど述べたショッピングモール型メディアというのは、その静的なサイトにユーザーがランディング(着陸)してくれることを当て込み、すべてが設計されています。いわばPCブラウザのお気に入りやメルマガ、RSS、検索エンジン経由でユーザーが見に来てくれるであろうことを前提としているわけです。
そのため、わたしは数年前からメディアのアンバンドル(分解)化が促進されるという話を展開してきました。特にキュレーションメディアやソーシャルメディアで話題になるものは、個別記事であって、メディアのブランドが先立つわけではありません。無論、これまでどおり、そのメディアの名称で検索(ブランデッド・サーチ)するという行為は廃れはしないでしょうけれど。
しかし、ユーザーの多くが脊椎反射的に、タイムライン上で見かけた記事をクリックする率が高まっているのも事実なのです。
つまり、現代のメディア配信は、記事がリキッド(液状)化して、それが瞬時にあらゆるストリームを駆け巡ります。そのため、どのような記事がどのストリームを通過し、どの属性のユーザーに刺さるのかを想定し、制作および解析する必要が生じてきたわけです。
また、このリキッド・コンテンツの配信にプライベートDMPを利用した配信方法が存在することにも講演では触れました。かつて、メディアはターゲット・オーディエンスを仮説として想定しましたが、DMPを利用することで、リアルタイムでこのターゲットの属性をかなり正確に把握できるようになりつつあります。加えて言えば、誰が訪れたかによって、コンテンツの種類を変えるということや、A/Bテストも可能となりました。
ショッピングモールから行商へ
リキッド・コンテンツをどう制するか、ただ、クチコミされただけでその先までも設計しなければ、真のマネタイズにはほど遠いと言えるでしょう。その先を考えるという意味で、リキッド・コンテンツを読んだユーザーらの態度変容をアトリビューション分析等ではかる必要もあるでしょう。また、それがどういう効果を及ぼし、その指標数値はいかほどのものなのか、配信計画と併せて考えねばなりません。
このようなリキッドコンテンツを取りまとめた発信源がメディアとなります。わたしはそれをショッピングモール型から、行商型への移行と呼んでいます。それは各コンテンツが行商のように、あらゆる経路をへたうえで、オーディエンスに接触し、態度変容を促すからです。
ではメディアのブランドは廃れるのかというと、そうではありません。むしろ、それはもっと高次な意味で重要性を増します。なぜなら、その行商はどこが行っているのか、その行商に商品(広告)を託す企業とその行商に接するオーディエンスにとって認知されることはさらなる付加価値を生むわけです。
電子チラシ型メディア VS リキッド・コンテンツ
この流れはPCブラウザでメディアを見ているだけでは、外形的に判断できないでしょう。ゆえに数多あるウェブサイトでも二極化が進んでいます。コンテンツ・マネジメントおよび、マネタイズは次のステージに突入していますが、まだ電子チラシのようにコンテンツを静的なものとして扱っている企業がほとんどではないでしょうか。
コンテンツ・パブリッシャーにとって、メディアを立ち上げる一連のプロセスのなかで、コンテンツ流通について戦略を練る必要があります。どう各種コンテンツ群を配信し、誰にどのような経路で届けるのか。配信と解析にどのようなテクノロジーを使うべきか。そして、どうマネタイズするのか。
受動から他動へ。リキッド・コンテンツの形をどう変え、あるいは泳がせるのかは、それぞれの媒体特性や扱う分野、オーディエンスによって違うでしょう。そこに一般解はありません。また、配信する際もただ単に注目を獲得するだけではなく、共感を生み出し、次に繋げることが最大の課題となります。
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