旧聞に属する話ですが、10月下旬にスイスのルガーノに渡航し、現地で開催された「3D Body Scanning Technologies 2015」に参加しました。
2日間にわたり、世界中から3Dスキャニングに取組む企業・研究機関等が集まり、最新の研究結果や新製品・サービスの発表やデモを行い、活況を呈していました。
ルガーノはスイス南部の避暑地として知られていますが、ほとんどイタリア圏であり、街中ではイタリア語が飛び交います。欧州のどこからもアクセスが良いため、国際的なカンファレンスが開催されるようです。
ルガーノ駅から市街の眺望。湖畔には旧市街の町並みが残り、観光客で賑わっている。
ルガーノ湖からすぐの旧市街地。リノベーションされた古い建物内に高級ブランド店が入居する。
仔細な解説等については、本ブログ読者の関心事とずれるでしょうから、ここでは概要についてのみ記載します。
その前に、まずデジモ社が手がける3Dスキャニングという分野について触れておきましょう。よくお客さまやメディアの方々から3Dプリントと一括りに呼称されることが少なくありません。当然ながらデータを読み込むための入力がスキャニングであり、それを造形するプリント出力とは異なります。
そもそも、3Dスキャニングの目的は自分の複製フィギュアを製作するのみではありません。医療、健康、美容、服飾、文化、娯楽、学術、軍事等の多方面で利用されています。本カンファレンスでのセッションは医療向けのものと、服飾と健康を中心とした2大カテゴリーに分けられていました。
会場となるルガーノ国際展示場。身体計測のための3Dスキャニングカーが横付けされている。
トレンドは3Dスキャンによる身体計測
デジモ社が行っている3Dスキャニングでは「テクスチャー」と呼ばれる身体表面のディテールを立体的な身体の情報と共に撮影します。もちろん、身体計測にも利用可能です。しかし、服飾分野においては身体の採寸が主目的となるため、何カ所にも及ぶ部位を正確かつ迅速に計測することこそが大切であり、テクスチャー情報は不要です(着せ替えシミュレーションはまた別ですが)。強いて言えば、CTスキャンやMRIを思い浮かべていただけばいいでしょう。
今回主流を占めていたのは、服飾向けの採寸を目的とした3Dスキャニングです。レーザーを用いたものから、ゲーム機やタブレットPCに実装される民生品のセンサーを利用するものまで、まさに百花繚乱という感じでした。自宅で3Dスキャンできるポータブル機から、デパートや専門店向け、トレーニングジム、はてはテーマパーク向けの機種まで展示されていました。
Stykuは米ロサンゼルスのベンチャー企業。ゲーム機用の民生品センサーを利用し、身体測定を行う。
課題はユーザー体験のデザイン?
今回、ほとんどの出展者が多目的利用を想定し、3Dスキャン後の身体データの扱いを念頭に置いていました。そのため、フォトグラメトリー(写真撮影による2Dのテクスチャー画像から演算によって3Dの立体オブジェクトを生成する方式)を採用するスキャンシステムは展示されていませんでした。
面白いと思ったのは、ハイスピードカメラによる3Dスキャニングで、こちらは動画のように身体の動きをスキャンできます。映画やゲームでおなじみのモーションキャプチャーよりも、さらに細かい表情や筋肉の動きなどがスキャンできます。簡単にいえば、1コマづつの連続した点群データ(三次元座標軸の塊)を取得するわけです。トレードオフとして、マシンパワーとストレージにフルスペックの性能が求められます。こちらは、主に医療や健康分野での活用が期待されているようです。
また、ノルウェーのベンチャー「ShareMy3D」は膨大な3Dスキャニングデータを保存し、汎用的なデータ形式に変換するクラウド型サービスを発表していました。
独企業のセンサーを活用し、米仏がタッグを組んだベンチャー「sizzy」。洋服のタグについたQRコードに採寸サイズが埋込まれ、ユーザーデータとマッチングさせる仕組み。
総論として、取得した3Dデータをどう扱うか、また、店舗等でどのようなユーザー体験をデザインするのか、それぞれの事業社によりアプローチがまったく異なるという印象でした。
たとえば、通販において、ユーザーが自分のサイズを適切に把握したほうがよい必要性は理解できます。しかし、店舗に出向いたユーザーは脱衣してまで高い精度の採寸を求めているのでしょうか?(me-alityのような着衣したままでスキャンできるシステムもありますが、こちらについては言いたいことがたくさんあるため割愛します)。
特にファッション好きなユーザーほどショッピング時はだらだら悩むのが楽しかったりするので、3Dスキャンを使うタイミングとその使い方が重要になるものと思われます。
また、この分野は小売店との協業が欠かせず、インターフェイスデザインを含めて、もっともユーザーが利便性を感じ、楽しめるためのカスタマージャーニー(認知から購入までの体験フローを可視化したもの)を掘り下げることが欠かせないでしょう。
「3Dボディスキャニング・テクノロジー2015」をひと言でまとめるとすれば、高度なセンシング技術をC2C市場でも活用したい欧州勢、ビッグデータを武器にクラウドとECを絡めたい米国勢、官学協同で服飾市場の技術革新を興したい中国勢という、それぞれのアプローチの違いが感じられました。今回は傍観者でしたが、わたしたちは独自のやり方で、日本における3Dスキャンの活用法を提案していきたいと思います。
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