電車が駅にとまると、改札でドア前に並んだスーツ姿の女性が目に入った。
なぜ目に入ったかというと、彼女が割と美人で、しかも奇異だったからだ。
その女性はおにぎりを頬張りながら、電車に乗り込んできた。
ホームで並んでいる状態から、すでにおにぎりを食べているのである。
そのまま、くちゃくちゃおにぎりを食べながら、電車に乗り込んできた彼女空いているほうの手でつり革を掴んだ。
むかし、お店で買ったばかりの菓子をすぐに食べようとして、私が当時交際していた女性から叱られたことがある。
「子どもじゃないんだから、家に着くまで我慢しなさい」
言い換えれば、本能のまま行動するのは、はしたないという貴族的な教訓である。
しかし、いまは注意してくれるような女性はいるのかしら。
器量のよい女性たちが、くちゃくちゃ物を食べながら公共の乗り物に乗る。
これは「育ちが悪い」という問題ではない、と気づいた。
シールドがあるのだ。透明な盾である。
自分と周囲の間にやわらかい、しかし、堅い皮膜がある。彼女はiPodを聞いていた。
携帯音楽プレイヤーはさらにシールドを厚くするツールかもしれない。
われわれは、どこにいても孤独な個人なのだ。
シールド越しに携帯でメールをやり取りし、オフィスでも近接しながらメールやチャットをしている。
シールド内で食事をしているのだから、他者は最初からいない。
ルンルン盾の完成である。
先日、血まみれの生理用品が道に落ちていた。109の前である。
歩きながら捨てたやつがいるのだ。
いやはや、すごい分厚いルンルン盾を人類は手に入れたものだ。
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